ネパール評論

ネパール研究会

煉瓦と桜のキルティプール

キルティプール名物には、赤煉瓦と桜もある。日本人観光客には、この二つだけでもキルティプールは見物に値する。

1.赤煉瓦の伝統と文化
思い込みといわれるとそれまでだが、赤煉瓦には伝統と文化が感じられる。たとえば、同じ本でも、モダンな近現代建築の図書館にあると軽薄な感じがするのに対し、赤煉瓦図書館だと重厚な感じとなる。

キルティプールには、その赤煉瓦が多い。建物ばかりか道路も、たしかに石畳やセメントが増えてはきたが、まだまだ赤煉瓦敷きの部分が多い。この村に伝統と文化、深さと重さが感じられるのは、それ故である。

■煉瓦造りの町キルティプール

煉瓦には、製造所ですら、特有の文化の香りがする。キルティプールの南西郊外には、相当数の煉瓦製造所があり、現在も稼働中だ。

その佇まいが実によい。文化的だ。工場というより工房の趣がある。いずれもかなり大規模な製造所だが、田舎の風景にとけ込み、絵となっている。特に、「秋霞」たなびく菜の花畑と、よくマッチする。


■煉瓦製造所遠景(左)/近景(右)

2.桜の哀愁
キルティプールは、また桜の名所でもある。丘には少ないが、ちょっと郊外に出ると、かなり見られる。菜の花が秋に咲き、霞が秋にたなびくように、ここでは桜も秋に咲く(春咲きもあるだろうが)。

11月16日はまだティハール休み。午後、キルティプールの丘を南に下り、ナガウンからバッケパティ方面へ散歩に行った。道草をしながら約30分。この道路は新設らしく、直線のアスファルト。つまり、煉瓦の正反対。伝統も文化も不在で、歩いても疲れるだけだ。

また、道の両側の家も、新しいものが大半で、モルタル塗り。しかも、ピンクや青やら、やたらケバケバしい。ピンクは煉瓦色に近いと思われようが、モルタルのピンクは軽薄、煉瓦の落ち着きとは比較にならない。

というわけで、バッケパティまでは無味乾燥なアスファルト直線道路なのだが、バッケパティのバス停で道路を外れ、山麓方面に向かう田畑の中の小道を少し行くと、山麓に桜が咲いている。野生なのか植えられたものかはわからないが、かなりある。田畑や小道沿いにはマリーゴールド、菜の花、ラルパテ、カンナ、そして名も知らぬ青や白や黄色の花々も満開だ。まさしく百花斉放。

このように、キルティプールの丘や郊外の桜も満開だと華やかではあるが、なぜか一種の悲哀も感じる。とくに、稲刈り風景の中の桜には、哀愁を感じざるをえない。これは日本人特有の感傷なのであろうか? 地元の人々に尋ねてみたいと思う。


■山麓の桜(左)/道路沿い民家の桜(右)

[追記]古き良きネパール
バッケパティのチョータラの前の茶店で紅茶(ミルクティ)を飲んだら、10ルピー(9円)だった。椅子を店の前に持ち出し、ボケーと風景や道行く人々を眺めていたので、チップをおこうとしたが、受け取ってもらえなかった。また、帰りに小型路線バスに乗ると、少年車掌さんがわざわざ席をつくり座らせてくれた。30分も歩けば、期待通りの「古き良きネパール」を体験することができる。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/11/17 @ 22:43

カテゴリー: 文化, 旅行

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