ネパール評論

ネパール研究会

京都の米軍基地(13):「Xバンドレーダー体制」の危険性

1.京都府,Xバンドレーダー容認へ
京都新聞(7月30日)によれば,京都府の山内副知事は29日,米軍Xバンドレーダー設置に「特に問題はない」とする,いわゆる「専門家」の意見をふまえ,「電磁波については心配はいらないのかなと感じている。内容が詰まってきた」と述べた。

京丹後市議会も,先述のように,22議員(議長1名)中の17議員が早期受け入れ要請書を提出しており,副知事の今回の容認発言により,京都府が近々米軍基地受け入れの最終決定をするのは避けられない情勢になってきた。

2.与件前提の科学的判断
問題はいくつもある。諮問委員会等の,いわゆる「専門家」が,権力の意思に沿うよう選任され,期待通りの答申を出すことは,原発等々で,その実例をいやというほど見せつけられてきた通りだ。いまや国民の多くは,いわゆる「専門家」は信用ならない,と考えている。これは,国民が生活を守るための健全な常識的判断だ。

いわゆる「専門家」は,誰かにより「与えられた条件(与件)」の下で安全性を判断する。これは科学であり,途中の処理に誤りさえなければ,その限りでは科学的に正しい。あるいは,蓋然性が極めて高い。しかし,いわゆる「専門家」の科学的判断は,与件の正しさを証明するものではない。

Xバンドレーダーが,その典型。いわゆる「専門家」は,極秘中の極秘,軍事機密の塊のようなXバンドレーダーの核心部分の情報を教えられてはいない。出力はたぶんこの位であり,たぶんこのような方法で設置され運用されるであろう,という根拠なき推測に基づき,「科学的」安全判定をしたにすぎない。

3.科学的判断の政治的利用
ところが,権力側は,いわゆる「専門家」の限定付きの科学的安全判定をえると,限定付きを棚に上げ,たとえばXバンドレーダーの安全性が科学的に証明されたと宣伝し,反対派を非科学的,無知蒙昧といって非難する。

しかし,真に科学的なのは,与件の妥当性をも疑う反対派の方である。私たちの常識は,北朝鮮はおろか中国奥地までも探知しうるXバンドレーダーが,数十メートル,数百メートルの近くの自宅や田畑,路上や船上にいる人々に,短期的あるいは長期的な影響を与えないはずがない,と警告している。この常識は健全である。

4.「Xバンドレーダー体制」による監視
しかし,Xバンドレーダーの危険性は,むしろ精神に対するものだ。権力は,Xバンドレーダーの議論が電磁波の身体への影響に向かうよう世論を巧みに誘導し,いまや,いわゆる「専門家」の安全判定により,少なくとも京丹後市議会や京都府議会の了承をほぼとりつけた。

これも問題だが,もっと議論されるべきは,むしろ「Xバンドレーダー体制」の「精神的Xバンドレーダー」が地元住民を照射し,その頭の中,心の中を映し出し,分析・評価し,記録・保存する危険性だ。

Xバンドレーダーは,単なる電子機器ではない。Xバンドレーダーは,それを運用する制度,人員を含めた一つの社会的・政治的システムとして設置される。この統合的システムとしての,いうならば「Xバンドレーダー体制」が,住民を監視し,調査・分析し,結果を記録・保存するのだ。

5.破壊工作と内通者探知
Xバンドレーダーは,米日同盟軍の最も重要な目の一つだから,北の某国や某々国はつねにその能力を探り,場合によっては,よく訓練された工作船やスパイを経ヶ岬付近に送り込む。彼らはプロだから,作戦実行に当たり,内通者確保など,ありとあらゆる周到な現地工作を行う。

「Xバンドレーダー体制」は,当然,この事態を想定し,あらゆる予防,防衛体制を整える。スパイや内通者はどこにいても不思議ではない。しかも,すぐそれと分かるようなスパイや内通者は役に立たないから,彼らは通常人民の大海の中に密かに潜んでおり,少々のことでは見分けがつかない。

そうした危険なスパイや内通者を見つけ出すには,住民1人1人の頭の中,心の中をくまなく照射できる強力で精緻な「精神的Xバンドレーダー」が必要である。米軍や自衛隊の情報部隊,政府の公安諸機関,そして警察公安などである。

6.一般住民監視のための「Xバンドレーダー体制」
権力の本性は猜疑心であり,つねに反対派を「非国民」,あるいは内通者シンパないし予備軍とみなし監視する,抜きがたい習性をもつ。

いま地元でXバンドレーダー反対闘争を議会において公然とやっている政党勢力は,日本共産党だけだ(共産党議員質問6月19日6月20日)。しかし,共産党の議員や党員は,いわば人民の大海の上に浮かんでおり,「精神的Xバンドレーダー」を使うまでもなく,容易に把握できる。その意味では,共産党員は,権力にとって,さしたる脅威ではない。

そうではなく,「精神的Xバンドレーダー」が必要なのは,健全な常識により「危ないのでは」と考え,共産党の反対運動に同調したり,あるいは独自に反対活動をしたりする一般住民である。

彼らは,人民の大海の中で他の人々と混在しており,容易に見分けがつかない。だから,Xバンドレーダーが経ヶ岬に設置されたら,同時に設置される「精神的Xバンドレーダー」の探知波を住民一切合切に照射し,その超高性能の解像能力により住民1人1人の差異を解析し,各人の危険性を算出し,どの程度監視するかを決めるのだ。

7.産軍官学共同体の思うつぼ
この種の住民監視は,米軍基地や自衛隊基地があるところでは,多かれ少なかれ,どこでも日常的に行われている。秘密を重視する「暴力装置」としての軍隊は,そのようなものなのだ。

京都府議会や京丹後市議会では,Xバンドレーダーと電子レンジはどちらが危険かといった,権力が用意した与件下の議論に終始し,「Xバンドレーダー体制」ないし「精神的Xバンドレーダー」の危険性については,ほとんど議論されていない。

日米の産軍官学共同体の思うつぼだ。してやったりと,ほくそ笑んでいるにちがいない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/07/30 @ 14:57