ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

老老介護,事始め(11):ネパールの反面教師,日本[3]

ネパールでも,高齢者扶養,特に認知症高齢者介護が,当事者にとっては深刻な問題となり始めた。多少重複するが,前回に続き論文や記事をいくつか紹介する。

A・ジャー,N・サプコタ「ネパールにおける認知症評価処遇プロトコル」(*2)
「認知症の人の多くは長期介護が必要であり,[ネパールでは]いまは家族がそれを担っている。彼らが必要としている介護支援は,ない。政府は,長期介護サービスの提供も介護者支援もしていない。介護者の心理的・経済的負担は,家族介護の様々な仕組みがまだ残っているとはいえ,先進諸国と同じくらい大きくて重い。・・・・ネパールは,国民が必要とする認知症介護のための備えが全くできていない。」( p293)

プラミラ・B・タパ「忘れないために」(*5)
「ネパールでは,ますます多くの高齢者が様々な問題に苦しむようになっている。長寿は社会的にはめでたいが,保健分野にとっては負担が重いからである。ネパール社会は現代化しつつあり,家族の誰かが首都や国外に出てしまうこともあって,伝統的な家族支援の仕組みが機能しなくなってきた。自宅に残された高齢者は,健康上や社会生活上の様々な問題に苦しんでいる。今日の高齢者の多くは,孤立して生活し,孤独や抑鬱にさいなまれがちなばかりか,認知症のような退化的疾病や他の身体疾病にもなりやすい。」

「認知症は加齢の結果ではなく,病気である。アルツハイマー型認知症は,記憶や思考や行動に様々な問題を引き起こす。ネパール社会は,アルツハイマー型や他の型の認知症のことをまだよく知らない。多くの人が,認知症は加齢痴呆だと信じている。一般の人々に,アルツハイマー症のことをもっと知ってもらう必要がある。」

[以下,「忘れないために」要点列挙]
・「高齢者法2006年」で60歳以上を「高齢者」と規定したが,長寿化で平均余命が男68歳,女70歳となっている。60歳を超えても健康な人が多く,60歳[WIKIでは58歳]停年制は実態に合わない。健康な人には働く場が保障されるべきだ。高齢者にも,認知症予防のためにも,健康で有意義な社会生活を保障せよ。
・認知症は恐れられ,汚名を着せられ,烙印を押されている。認知症者の孤立を招かないよう,正しい認知症理解のための啓蒙活動を推進せよ。
・保健省は認知症者に10万ルピーの支援金を割り当てているが,手続きが煩雑なため多くの家族が受け取っていない。簡略化せよ。また,認知症者と介護者の生活改善のための総合的保健政策を推進せよ。
・認知症者とその家族は,仕事が困難になる一方,生活費や治療費がかさみ,経済的に苦しい。年金や保険を準備し,経済的に支えよ。
・認知症者の諸権利を制度的に保障すれば,それは認知症の正式な認定となり,様々な差別もなくなっていくであろう。
・各地域に,専門的介護が受けられる送迎付き通所型および居住型介護施設を開設せよ。
・認知症専門病院および認知症介護専門家養成校の開設。
・認知症治療薬は月8千~1万ルピーかかる。政府は2007年,多くの薬の無償化を決めたが,認知症治療薬は対象外。認知症は経済的に最も負担の大きい病気の一つ。治療薬を無償化せよ。

以上,ネパールの認知症に関する論文と記事をそれぞれ1つずつ紹介したが,これらからだけでも,ネパールにおける認知症問題の加速度的深刻化が避けられそうにないことが見て取れる。

日本は少子高齢化の超先進国。その日本の対認知症諸政策から――特に,その失敗から――ネパールが学びうるものも少なくないのではないかと思う。


 ■「高齢市民の声」2017年11月号/シディシャリグラム老人ホーム(シディ記念基金FB)

*1 Sapkota, N., “The World is graying: Dementia is an alarming issue,” Health renaissance 2015: 13(3)
*2 Jha, Arun & Nidesh Sapkota, “Dementia assessment and Management Protocol for Doctors in Nepal,” JNMA, Vol 52 No 5, Issue 189, Jan-Mar 2013
*3 Kwok, Kenji, “Remembering dementia,” Nepali Times, #752, 3-9 Apr 2015
*4 中村律子「ネパールにおける『Sewaの場』と老人ホームの位置」,『現代福祉研究』第11号,2011年3月
*5 Thapa, Pramila B., “Lest we forget,” Kathmandu Post, 22 Sep 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/05/15 @ 17:11

カテゴリー: 社会, 健康

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