ネパール評論

ネパール研究会

それでも夜は明ける

老人性不眠。眠る体力さえ不足し,昨夜は2時間ほどウツラウツラしただけ。朝になっても昼になっても頭はボォーとしていて,夜は明けない。これはイカンと思い,外出し,「それでも夜は明ける」を観てきた。

たいへんな力作。上映が始まると,たちまち目が覚め,ぐいぐい引き込まれていった。たしかに明けない夜はない。

これは,ソロモン・ノーサップの回想録を映画化したもの。
 ・原作: Solomon Northup, 12 Years a Slave, 1853. 邦訳,花泉社,2014年
 ・監督: スティーブ・マックイーン
 ・ソロモン: キウェテル・イジョフォー
 ・奴隷主: マイケル・ファスベンダー
 ・音楽: ハンス・ジマー

主人公ソロモンは,自由黒人で,ニューヨーク在住のバイオリニスト。1841年のある日,だまされ,逃亡奴隷として南部に拉致され,農場に奴隷として売られ,酷使・虐待される。そうしたある日,カナダ人奴隷解放論者と知り合い,彼の尽力で解放され,12年後ニューヨークに戻る。

映画では,どの場面,どの人物も複眼的視点から描かれており,これが作品全体に緊張感と強いリアリティを与えている。この時代の奴隷制はこのようなものであり,その中で生きる人々それぞれの強さと弱さ,希望と絶望もまたそのようなものであったであろう,と納得させるに十分なできばえであった。

映画の舞台はアメリカ,制作は米英。アングロサクソン文化のスゴさは,この映画も物語るように,極悪非道を平然とやりながら,他方ではその悪を自ら暴き立て容赦なく告発するところにある。悪も善も確信的・原理的であり,ケタちがい。ドラマチックでドラマにはなるが,つきあいにくい。米英には,文化のこのような特質をよく理解していないと,酷い目に遭わされそうだ。

140605 ■作品FB

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/06/05 @ 10:54

カテゴリー: 文化, 歴史, 人権

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