ネパール評論

ネパール研究会

ガンジーを虚仮にしたオバマ大統領

谷川昌幸(C)
オバマ大統領のノーベル平和賞受賞演説(12月10日)を読んで,こんなはずではなかった,と落胆している人も少なくあるまい。「オバマ感謝祭」を開催し,「オバマ法被」を着て「オバマみこし」を担ぎ練り歩いた長崎においても,失望の声が聞かれ始めた。
 
オバマ大統領は,ガンジーやキング牧師を引用し称賛しながらも,「正しい戦争」,つまり防衛戦争と人道介入戦争を認め,ガンジーの非暴力・不服従による抵抗の教えを否定してしまった。
 
オバマ大統領は,演説において戦争を必要悪としてはっきりと認めており,したがって彼の核廃絶宣言も従来の核軍縮の枠を越えるものではない。
 
彼は正戦を認めるのだから,当然,核抑止力も認めている。核が大国によりきちんと管理されている限り,アメリカの核は世界最大の抑止力を持つから,アメリカにこれを廃絶する理由はない。
 
しかし,核拡散が続き,核がテロリストの手に渡ると,アメリカの核兵器はそれに対し何の抑止力もない。むしろ,核攻撃へのテロリストの意欲を掻き立てるだけだ。
 
オバマ大統領は,この状況に危機感を抱き,核拡散を防止するため核廃絶を唱えているにすぎない。だから,核の大国管理が回復すれば,核廃絶を唱える理由はなくなり,オバマ大統領,あるいは後継米大統領は,核廃絶をいわなくなるであろう。
 
オバマ大統領は,あえていうなら,ガンジーを虚仮にした。ガンジーは一切の正戦を否定したのであり,正戦を認めるオバマ大統領はガンジーを引き合いに出すべきではなかったのだ。
 
しかし,それにもかかわらず,私はオバマ大統領を高く評価する。彼は,やはりブッシュ前大統領とは格が違う。オバマ大統領は,ガンジーやキング牧師の非暴力・不服従による抵抗の立場を十分に理解した上で,そしておそらく彼らを虚仮にすることになることがわかっていても,それでも彼らを引き合いに出さざるをえなかったのだ。オバマ大統領のノーベル賞受賞演説には,彼の誠実さと,それゆえにこそ生じる内面の苦悩が,滲み出ている。
 
オバマ大統領は傑出した政治家である。長崎・広島は,手放しのオバマ礼賛ではなく,彼の正戦論を徹底的に批判することによって,彼が核抑止論も力の均衡論も放棄し非暴力・非戦平和の立場に向かうよう,彼を激励し支援すべきであろう。
 

Written by Tanigawa

2009/12/13 @ 21:01