ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

ネパール人「虚偽」難民申請と日本の制度悪

朝日記事「ネパール人留学生,偽りの難民申請,稼ぐため制度乱用」(朝日デジタル10月26日)が,波紋を呼んでいる。要旨は以下の通り。

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ネパール人の留学生や技能実習生らが,次々と難民申請をしている。難民認定申請すると,申請後半年から結果がでる数年後まで身分が保障され,有利な条件で働き,金を貯め,帰国することができるから。

たとえば,ネパール人農業実習生の場合,厳しい長時間労働にもかかわらず,月収は7万円であったが,難民申請後,20万円となった。

このネパール人のような難民申請は,虚偽申請であり制度乱用だが,(1)難民認定に時間がかかりすぎる,(2)外国人労働者雇用制度の不備など,日本の制度にも問題がある。
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以上が朝日記事の要旨だが,この問題については,数年前から様々な指摘がなされてきた。

(1)「難民認定申請:名古屋入管,06年19人 → 11年225人に急増」:ネパール人,スリランカ人,パキスタン人など(毎日2013/1/8)
(2)「難民保護費:相次ぐ不正受給」:愛知県警,ネパール人4人を難民保護費不正受給容疑で逮捕。(毎日2013/2/9)
(3)「難民申請,最多の3260人 13年,認定は6人に減」:難民申請トルコ658,ネパール544,ミャンマー380,スリランカ345(共同2014/3/20)

たしかに,ネパール人難民申請は,急増している。入国管理局によれば,以下の通り。

難民認定申請者(法務省入国管理局「平成25年における難民認定者数等について」平成26年3月20日)
141029c
141029a 141029b

2013年度難民認定6人のうちネパール人が何人かは分からないが,ゼロか,いてもごくわずかであることは間違いない。難民認定基準が厳しすぎるにせよ,現行制度を前提とするなら,ネパール人難民申請の多くが,いわゆる「虚偽申請」ないし「制度乱用」に当たるとみざるをえない。

この現状には,いくつか問題がある。第一に,本当に必要な人の難民申請や認定に支障が出るということ。第二に,労働目的の難民申請に非難の矛先が向けられることにより,日本の外国人雇用制度そのものの不当性が隠蔽される恐れがあるということ。

たしかに,現行の制度を前提とするなら,ネパール人難民申請の多くは,いわゆる「虚偽申請」ないし「制度乱用」であろうが,しかし,これは申請するネパール人の側の責任では,断じてない。責任は,あげて日本の外国人労働者制度(特に技能実習制度)や難民認定制度にある。

悪いのは,日本の制度。朝日記事のように,過度にセンセーショナルな見出しをつけると,誤解を招きかねない。かりそめにも,ヘイトスピーチの矛先をネパール人労働者に誘導し,憂さ晴らしをさせるようなことは,してはならない。

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【参照1】(2015-2-18追加)

曽野綾子の透明な歳月の光  労働力不足と移民 「適度な距離」保ち受け入れを
 最近の「イスラム国」の問題など見ていると、つくづく他民族の心情や文化を理解するのはむずかしい、と思う。一方で若い世代の人口比率が減るばかりの日本では、労働力の補充のためにも、労働移民を認めねばならないという立場に追い込まれている。・・・・
 しかし同時に、移民としての法的身分は厳重に守るように制度を作らねばならない。・・・・
 ここまで書いてきたこと矛盾するようだが、外国人を理解するために、居住を共にするということは至難の業だ。
 もう20~30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった。・・・・
 爾来、私は言っている。 「人間は事業も研究も運動も何もかも一緒にやれる。しかし居住だけは別にした方がいい」 

(産経新聞2015年2月11日付コラム要旨抜粋)

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産経新聞 曽野綾子さんのコラムへの抗議文

曽野綾子様  産経新聞社常務取締役 飯塚浩彦様

 『産経新聞』2015年2月11日付朝刊7面に掲載された、曽野綾子氏のコラム「労働力不足と移民」は、南アフリカのアパルトヘイト問題や、日本社会における多様なルーツをもつ人々の共生に関心を寄せてきた私たちにとって、看過できない内容を含んでおり、著者の曽野綾子氏およびコラムを掲載した産経新聞社に対して、ここに強く抗議いたします。
 曽野氏はコラムのなかで、高齢者介護を担う労働力不足を緩和するための移民労働者受入れについて述べるなかで、「外国人を理解するために、居住を共にするということは至難の業」であり、「もう20~30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった」との持論を展開しています。
 「アパルトヘイト」は現地の言葉で「隔離」を意味し、人種ごとに居住区を分けることがすべてのアパルトヘイト政策の根幹にありました。また、アパルトヘイトは、特権をもつ一部の集団が、権利を剥奪された他の集団を、必要なぶんだけ労働力として利用しつつ、居住区は別に指定して自分たちの生活空間から排除するという、労働力管理システムでもありました。移民労働者の導入にからめて「居住区を分ける」ことを提案する曽野氏の主張は、アパルトヘイトの労働力管理システムと同じです。国際社会から「人道に対する罪」と強く非難されてきたアパルトヘイトを擁護し、さらにそれを日本でも導入せよとの曽野氏の主張は言語道断であり、強く抗議いたします。このような考え方は国際社会の一員としても恥ずべきものです。
 おりしも、このコラムが掲載された2015年2月11日は、故ネルソン・マンデラ氏が釈放されて、ちょうど25年目にあたる日でした。その記念すべき日に、南アフリカの人びとが命をかけて勝ち取ったアパルトヘイトの終焉と人種差別のない社会の価値を否定するような文章が社会の公器たる新聞紙上に掲載されたことを、私たちはとても残念に思います。
 曽野綾子氏と産経新聞社には、当該コラムの撤回と、南アフリカの人々への謝罪を求めます。また、このような内容のコラムが掲載されるに至った経緯、および人権や人種差別問題に関する見解を明らかにすることを求めます。以上について、2015年2月28日までに文書でアフリカ日本協議会(AJF)へお知らせくださるようお願いいたします。また、貴社のご対応内容については他の市民団体、在日南アフリカ共和国大使館、国際機関、報道機関などへ公開するつもりであることを申し添えます。

2015年2月13日  (特活)アフリカ日本協議会 代表理事 津山直子

The Letter to Sankei-shinbun and Ms. Sono Ayako in English
13 Febrary 2013

Ms. Ayako Sono, the author  Mr. Hirohiko Iizuka, Managing Direcor, SANKEI SHIMBUN CO.,LTD

Ms. Ayako Sono’s column which appeared on the Sankei Shimbun morning edition on 11 February 2015, has inappropriate contents that cannot be overlooked. We, as an NGO which has had concerns about apartheid in South Africa and aspiration for harmonious coexistence of people with various roots within Japanese society, strongly protest against the author of the column as well as against the Sankei Shimbun for running the article.

In the column Ms. Sono, discussed the need to introduce immigrant workers who would provide nursing care for the elderly in Japan and wrote that she felt it extremely difficult to live with foreigners. She also wrote “Since learning about the situation in South Africa 20 or 30 years ago, I’ve come to think that whites, Asians, and blacks should live separately.” (Translation by Japan Times, “Author Sono Calls for Racial Segregation in Op-Ed Piece,” 12 February 2015)

“Apartheid” means “separation” in the local language of South Africans. Separating residential areas according to race was the foundation of apartheid policy. Apartheid was also a labor force management system, in which the privileged race deprived other races of their rights by using them as convenient labor. At the same time this privileged race did not let these races remain in their own areas. Arguing for a separate residential area for immigrant workers, as Ms. Sono does, is synonymous with calling for an apartheid system in Japan. It is abominable to defend apartheid, which has been strongly condemned by the international community as a “crime against humanity”, and to argue for introducing a similar system in Japan. We strongly object to this opinion. It is a shameful act to express such views as a member of the world community.

Coincidentally, the day the column run, 11 February 2015, was a 25th anniversary of the late Mr. Nelson Mandela’s release from the prison. It was very disappointing that we had to find, on this memorable day, a column which negates the significance that South African people fought, risking their lives, for the end of apartheid and the realization of society without racial discrimination.

We demand Ms. Sono and the Sankei Shimbun retract this column and apologize to the people of South Africa. We also demand an explanation regarding the process in which the column went to press, and your view on human rights and racism. Please send us your written response to Africa Japan Forum (AJF) by 28 February 2015. Please be advised that we intend to inform other NGOs, the South African Embassy, international organizations, and various media companies of any response we receive from you.

Tsuyama Naoko  President  Africa Japan Forum

(http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/archives/sonoayako-sankei20150211.html)

【参照2】(2015-2-25追加)
亀井伸孝「『文化が違うから分ければよい』のか―アパルトヘイトと差異の承認の政治」
 ・曽野綾子氏の産経新聞コラム。「人種主義」と「文化による隔離」の二つの問題点。
 ・文化人類学は、南アフリカのアパルトヘイト成立に加担。
 ・黒人の母語使用を奨励する隔離教育。
 ・「同化」を強要しないスタンスが、「隔離」という別の差別を生む温床。

【参照3】ネパール人夫婦,難民認定(2015年4月24日追加)
愛知県豊川市在住のネパール人夫婦が,2015年3月27日,難民認定された。RPP党員で,マオイストに迫害され,2007年1月観光ビザで来日,2010年難民申請するも2011年不認定。2011年5月,異議を申し立て,これが3月27日認められ,ネパール人初の難民認定となった。
*中日新聞,毎日新聞,朝日デジタル,2015年4月24日。

谷川昌幸(C)