震災や憲法よりもSLC学力試験
ネパールではいま,震災よりも憲法よりも,子供たちの学力試験(SLC)結果の方が,多くの人にとって,より切実な関心の的だ。
1.針路を左右するSLC
ネパールでは,10(5+3+2)学年修了者を対象に全国統一学力試験(School Leaving Certificate)が実施される。成績は,合格(S-A-B-C)と不合格。
2015年度SLCは,約41万人が受験し,19万人が合格した。全受験生の成績は,試験管理事務所(OCE)が6月19日発表し,詳細をネット公開,誰でも閲覧できる(個人特定不可)。
このSLC成績は,進学や就職を大きく左右するもので,受験生とその家族だけでなく,社会全体の関心も極めて高い。
2.SLC失敗で自殺
SLCの重圧は受験生を苦しめ,毎年,自殺など悲惨な事件が絶えない。今年も,
・ダンクタの女学生(20歳):数学で失敗し不合格。毒を飲み自殺。(b)
・コタンの女生徒(17歳):学業成績は学年トップクラスだが,SLCは数学で失敗し不合格。あまりのショックで意識を失い,そのまま死亡。(a)
3.エミールをネパールに
ネパールは,SLCに象徴されるように,ペーパー試験偏重の超学歴社会。非就学や非識字もさることながら,全体的には,いまではむしろ低学年から始まる過当で歪な「学力」競争の方が,ネパール社会にとって,とりわけ当事者の子供たちにとっては,深刻な問題ではないだろうか?
『エミール』は,いまのネパールでこそ,読まれるべきだ。
4.教育制度の歪み
全国統一学力試験(SLC)は,個々の生徒の「学力」だけでなく,それぞれの学校の「レベル」をも,全国規模で「客観的に」判定する。生徒のSLC成績を学校ごとに集計すれば,一発で,すべての学校が1位からビリまで,きれいに序列化される。生徒同士と同様,学校も過酷な競争を強いられるのだ。
興味深いのが,リパブリカ紙掲載の下図(c,データは2014年度)。公立校と私立校のSLC合格率の差は歴然(公立28%,私立93%)。また,地域間格差も著しい。カトマンズなど都市部だけ集計すると,格差はもっと拡大するだろう。不思議なのは教師のずる休み。教師給料は公立(1万4千~3万1千ルピー)の方が私立(5千~2万ルピー)より高いのに,ずる休みは公立校教師の方が多い。
ネパールの「学力」競争,学歴競争,学校競争は異常だ。これが本当の教育なのか? この「教育先進国」ネパールの後追いをするのが日本。もって他山の石とすべし。
[参照]
(a) “SLC-failed dies due to heart attack,” Ekantipur,20 JUN.
(b) SIDDHI RAJ RAI,”GIRL COMMITS SUICIDE AFTER FAILING SLC,” Republica,20 Jun.
(c)NIRJANA SHARMA,”47.43 PC MAKE IT THROUGH SLC,” Republica,19 Jun 2015.
谷川昌幸(C)