ネパール評論

ネパール研究会

中国経由石油,ヒマラヤを越えられるか?

ネパール政府は,石油・ガス不足に対処するため,中国と覚書を交わし,石油類の輸入に着手した。が,北方にはヒマラヤがそびえている。この難所を越えられるのか?

ネパールの石油・ガス不足は,かなり深刻だ。燃料不足で民間車両が少ないため,10月30日から軍用車両4台が出動,カトマンズ8路線を終日無料で市民を運び始めたが,これは焼け石に水。また,プロパン不足のため,半分充填で販売し始めたが,これもボンベ数は倍になっても,早く無くなるので,自転車操業にすぎない。

こうした状況にあって,中国からの石油供与や,それに続く石油輸入は,まさに寒天の慈油。しかし,緊急措置としてはそうであっても,少し長期的に見ると,どうか? 本当に,うまくいくのだろうか?

一つは,何といってもヒマラヤ越え。カトマンズから吉隆まで200キロ前後。地震被害部分を応急補修したそうだが,各紙写真を見ると,急峻な悪路を谷底に落ちそうになりながらタンクローリーが登っている。10月31日,12台がラスワガディ国境まで着いたそうだが,この様子では,安定的大量輸送は望めそうにない。運転手も怖がり積載量を大幅に少なくしているそうだ。積雪や凍結もある。

国境からカトマンズ付近までパイプラインを引く計画もあるが,これはすぐには間に合わない。ヒマラヤ越えはいまでも難しい。

もう一つは,それと関連するが,中国経由石油には,当然,インドが戦術的な対抗措置をとる。すでに,インドは石油・ガスの対ネパール輸送を少し増やし、様子を見ている。中国からの石油購入は,対印圧力としての政治的意味は多少あるにしても,中国内陸輸送・ヒマラヤ越えの経費を考えると,コスト的にインド経由石油には対抗できそうにない。経済的には,中国からの継続的石油輸入は無理ではないか?

おそらく,そうしたこともあってだろうが,マデシ反政府活動は,治まりそうにない。最重要通過点であるネパールガンジ・ラクサウル間の国境付近も,11月1日朝,ネパール警察がデモ隊を排除し,通行可能としたが,インド側タンクローリーがインド側に戻ると,インド治安部隊がすぐデモ隊の再展開を容認したため,再び閉鎖されてしまった。

インド側は,長期的には、中国経由石油をさして脅威と見ていないのではないか? そもそもネパールの石油・ガス不足は,憲法制定という政治問題に起因している。その解決がなければ,石油・ガス問題の解決も難しいのではないだろうか。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/02 @ 19:45

カテゴリー: インド, 経済, 憲法, 民族, 中国

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