ネパール評論

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制憲議会選挙(29):政治的混乱と妥協の下での選挙

今回の制憲議会選挙が政治的混乱と妥協の下で行われ,正統性が十分には確保されていないことは,残念ながら誰しも認めざるをえないであろう。主要な国家機関の状況は,以下の通り。

・元首: ラムバラン・ヤダブ大統領(コングレス党)
・立法: 制憲議会=立法議会は2012年5月27日解散,以後議会なし。
・行政: 大臣会議(選挙管理内閣)。議長(首相)はキルラジ・レグミ最高裁長官(2013年3月14日~現在)。
・司法: 最高裁判所。レグミ長官は最高裁長官としての職務停止。長官代理判事が職務代行。
・高等政治委員会(High Level Political Committee): 主要4党の「11項目合意」(3月13日)により2013年3月16日設立。委員8名。委員長ポストはマオイスト,コングレス,統一共産党,統一民主マデシ戦線の1月交代回り持ち。

このように,議会は2012年5月27日解散し,以後,存在しない。内閣も,バブラム・バタライ首相の辞任(2013年3月13日)以後,正式なものは存在せず,レグミ最高裁長官を議長とする大臣会議が,選挙管理内閣として行政権を担当してきたにすぎない。一方,最高裁は,長官がいわば「出向中」で,職務は長官代理が代行している。「出向中」の長官と長官代理は,一応,区別されているとはいうものの,誰がみても不自然であり,当然ながら,行政・司法一体の非民主的体制と何かにつけ批判されている。

議会解散以降のネパールには,国家権力を正統かつ効果的に行使しうる機関は存在しなかった,といってよいだろう。

この状況において,最終的な意思決定をしてきたのは,おそらく「高等政治委員会(HLPC)」であろう。しかし,HLPCは,旧制憲議会の4大勢力(マオイスト,コングレス,統一共産党,統一民主マデシ戦線)の,いわば「談合」により設置された機関であり,委員長は各党の1月交替回り持ちだ。こんな有様では,HLPCも国家意思の責任ある最終決定機関とは到底いえはしない。むしろ,4大政治勢力の不透明で不安定で無責任な談合組織といった方がよいかもしれない。

今回の制憲議会選挙は,実際には,このような混沌とした政治状況の下で行われた。形式的にはともかく,実質的には,選挙制度変更や候補者・当選者選考に見られるように,選挙に不透明な部分が多いのはそのためである。

140109
■投票所。壁には「銃持込禁止」ビラ貼付(キルティプル)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/01/09 at 18:58