ネパール評論

ネパール研究会

マオイストの憲法案(4)

4.国籍――第2編
第2編第8~21条は,国籍(citizenship)を規定している。

(1)国籍・州籍の国家認定
ネパール国籍は,各人の州籍(provincial identitiy帰属州)とあわせて連邦政府が認定する。これは,面白い規定だ。

連邦政府は,たとえば「ネパール国民/シェルパ州民」といった身分証明書やパスポートを発行するのだろうか? しかし,人は移動するから,もしシェルパがカトマンズに移住したら,身分は「ネパール国民/ネワ州民」となってしまう。そもそもprovinceは,地理的概念なのか,それとも属人的民族概念なのか? 地理的概念なら,民族州設置の意味は流動化の現在,あまり無いといわざるをえない。

日本にも「本籍」と「住所」がある。この「本籍」は,まったくもっていい加減なもので,どこに移転しようが、本人の自由である。身元証明の役には立たない。Provincial identityも,日本の「本籍」と同様,前近代の残存物ないし前近代への先祖返りではないのか。

(2)多重国籍の拒絶
マオイスト憲法案は,このような変な重複アイデンティティを取り入れておきながら,多重国籍はかたくなに拒絶する。国家が国民のアイデンティティを独占するのがケシカランのであれば,多重国籍を認めてもよいはずなのに,国粋主義者マオイストは国家を超えるアイデンティティは絶対に認めない。ご都合主義といわざるをえない。

(3)国籍取得の性的平等
国籍取得は,血統主義をとり,父系・母系の差別はない。ネパール人との結婚による帰化についても,男女は完全に平等。暫定憲法以上に徹底している。

また,国籍は、本人のジェンダーを明記して認定されるので,男・女・第三の性・第四の性・・・・といったことになる可能性がある。日本入管が困るだろう。

(4)非居住ネパール人証明書
ネパール国籍をもたない非居住ネパール人には,「非居住ネパール人証明書」が発行され,政治的諸権利以外のすべての権利が保障される。

これは,ネパール系外国人のネパールにおける経済活動の自由を保障するものであり,以前から要望されていた。マオイストは共産党だが,経済的にはコングレス以上にちゃっかりしている。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/03/10 @ 20:06

カテゴリー: マオイスト, 憲法

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