マオイストの憲法案(8)
4(3)自由権(4)
[4]政党結成の自由(23条(2)d)
政党の規定は,「非政党制パンチャヤット制」を原理とする1962年憲法には,無い。
1990年民主化運動後に成立した1990年憲法では,自由権規定の部分にはないが,第17編に政党規定を置き,政党要件を詳細に定めている。政党の権利を制限する「但し書き」は、自由権制限の「但し書き」がそのまま適用され,法文上はこの権利はほとんど空文化されている。
2007年暫定憲法は,自由権の部分に政党結成の自由の規定を置き,そこに「但し書き」を付している。この「但し書き」は,「組合および団体を組織する自由」にもそのまま適用される。つまり,政党も他の組合・団体も制限要件は同じである。
ところが,マオイスト憲法案では,政党規定そのものに「但し書き」がつけられ,しかも他のどの自由の「但し書き」以上に詳細かつ長大な「但し書き」となっている。マオイストが、どの自由を危険視しているかが外見的にも一目瞭然だ。
マオイスト憲法案では,政党結成の自由は,次の場合,法律により制限できる。
・公益を損なう行為
・国民性,主権および統合を損なう行為
・反国家的スパイ行為
・国家機密の漏洩
・対外的安全を危うくするような形で外国の国家,組織もしくは機関のために行う行為(国家反逆行為)
・支邦間の調和的関係を損なう行為
・人種もしくは社会集団の憎悪を生む行為
・カースト,民族,宗教およびエスニック集団の間の調和的関係を損なう行為
・人種,言語,宗教,社会集団もしくはジェンダーを理由にした党員資格禁止行為
・市民間の差別をもたらすような政党結成行為
・暴力を惹起する行為
・公序良俗に反する行為
・国家転覆行為
・外国の御用機関(agent)としての行為
・反国民的陰謀
・反動的行為
・国家転覆,御用機関的行為,反国民的陰謀および反動的行為を実行するための組織もしくはメカニズムをつくる行為
政党を作って活動してよいのは,以上のような厳しい条件をすべてクリアした場合のみである。憲法正文に、こんな「但し書き」を入れるのは,そもそもナンセンスで,バカバカらしくて議論の余地もないが,バカにしていると,本当にこんな憲法ができてしまう。バカバカしいと呆れつつも,それでも相手にせざるをえないのだ。
どれもこれも恐怖の規定だが,もっともマオイストらしい規定は,ここでもやはりスパイ罪,国家機密漏洩罪,国家反逆罪,陰謀罪だ。国家機密は国家(政府)が決めマル秘とするわけだから,政府が隠している情報をもとに政府批判をすれば,たちまちスパイ,機密漏洩,反逆とされ,解党命令を受ける恐れがある。戦前日本の不敬罪よりも恐ろしい。治安維持法(これは法律だが)よりも,権力にとっては使い勝手がよい。
マオイストは,被抑圧人民のために勇敢に戦い,彼らを解放し,多くの自由や権利を獲得した。その功績は絶賛に値する。しかし,その一方,マオイストはプロレタリア独裁を掲げる共産党であり,プロレタリア自身ではなく,彼らの前衛たる共産党,しかもその幹部の独裁へと向かうことは避けがたい。マオイスト憲法案のこの政党規定は,その絶好の根拠となるであろう。
北欧諸国など,国際社会のマオイスト応援団は,このことを忘れないでいただきたい。
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谷川昌幸(C)