ネパール評論

ネパール研究会

マオイストの憲法案(12)

4(5)通信報道の権利

マオイスト憲法案第25条は通信報道(マスコミュニケーション)の権利を保障している。

第25条(1) 事前検閲の禁止。出版,放送など,あらゆる情報通信の事前検閲が禁止され,そこには電子媒体(インターネットなど)も含まれる。ただし,「但し書き」により制限されている(後述)。

第25条(2) ラジオ,テレビ,新聞,ネットサイトなど,あらゆるメディアの閉鎖,没収,認可取り消しの禁止。

第25条(3) 上記(2)の違法行為があった場合は,損害賠償を受ける権利がある。

第25条(4) 法律によることなく,出版,放送,電話および他の伝達手段を妨害することの禁止。

同様の規定についてみると,1962年憲法も「言論・表現の自由」は認めていた。しかし,「通信・報道の権利」という文言はないし,しかも,「公共善」「ネパールの安全」「法と秩序」「外交関係」「カーストや地域の間の友好関係」「公序良俗」「未成年もしくは女性の保護」「国内争乱および侵略の予防」「法廷や国家評議会の侮辱」といった理由で,この自由は制限されており,事実上,無いに等しい。

90年憲法になると,「印刷出版の権利」が明記され,検閲禁止,印刷所閉鎖禁止,新聞・定期刊行物認可の取り消し禁止が規定された。

さらに暫定憲法になると,「出版,放送,報道の権利」が保障され,そこには電子媒体(インターネットなど)も含まれるようになった。それらすべてについて,事前検閲,閉鎖・没収・認可取り消しが禁止される。

マオイスト憲法案は,この暫定憲法の規定とほぼ同じである。

しかし,ここでもまた「但し書き」により権利が制限される。

「通信報道の権利」の制限理由
[90年憲法]王国の主権と統合を損なうとき,カースト・部族・共同体の調和的関係を損なうとき,煽動・名誉毀損・法廷侮辱・犯罪教唆・公序良俗違反となるとき。

[暫定憲法]上記に加え,国家反逆行為。

[マオイスト案]上記2者に加え,国民性を損なうとき,支邦間の調和的関係を損なうとき,公衆衛生を損なうとき,不可触民差別・人種差別・性差別となるとき。

このように,「通信報道の自由」についても,「但し書き」による制限はマオイスト案が最も多い。やはりマオイストは「自由の友」とは言いがたいようだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/04/11 @ 21:22

カテゴリー: マオイスト, 憲法

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