ネパール評論

ネパール研究会

ブッダ平和賞の二面性

ブッダ(仏陀)国際平和賞受賞の田上長崎市長と秋葉前広島市長が,16日,トリブバン空港に到着した。被爆者2名も同行。

授賞式は,仏陀生誕地ルンビニおいて,仏陀生誕日(Buddha Jayanti,バイサクの満月,2011年5月17日)に挙行される。

授賞式では,ヤダブ大統領が,受賞者2氏に金メダルと賞状と賞金5万ドル(各2.5万ドルの現金)を授与する。
トリブバン空港着の受賞者(Republica 2011-5-17)

田上,秋葉両氏への仏陀平和賞授与は,オバマ大統領の核廃絶宣言や福島原発事故で世界世論が反核に大きく転回し始めたいま,時宜を得た決定である。

トリブバン大学(キルティプル,カトマンズ)では,長崎原爆展(5月18-21日)も開催され,ここには駐ネパール大使も来賓として出席され,日本政府・日本国民代表として開会挨拶をされる。

以前であれば,外国での原爆展に日本大使が出席し反核を訴える、といったことは考えられないことであった。核をめぐる世論は,劇的に変化した。これは喜ばしいことであり,高く評価される。

しかし,その一方,「仏陀」は仏教開祖であり,仏教徒の信仰対象である。通俗的には,キリスト教における「イエス」と同じ。

ネパール政治においては,仏教(仏陀)は,1996年人民戦争開始以来,伝統的なヒンドゥー教王国(高カースト支配体制)打倒のための革命イデオロギーの一つとして利用され,2006年春の王制打倒成功後は,革命共和国の正当化イデオロギーとして政府・新体制派により利用されてきた。

あえていうならば,仏教はネパール共和国(与党は統一共産党と毛沢東派共産党)の準国教なのである。

われわれは,田上長崎市長・秋葉前広島市長の仏陀平和賞受賞を祝福し,その世界的意義を高く評価しつつも,仏陀が仏教の「神」であり,仏教がネパール共和国の準国教である,という事実をも忘れてはならない。

ルンビニでの平和賞授賞式は,おそらく仏教の寺院か関連施設で挙行される。もしそうであれば,授賞式は「仏前授賞式」となるであろう。
ブッダ生誕地(2008-9)

ルンビニ(2008-9)

ルンビニの五戒碑(2008.9)

上記碑文(2008.9)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/05/17 @ 12:08