ネパール評論

ネパール研究会

ロイ「壊れた国家」出版

アルンダティ・ロイが「壊れた国家(Broken Republic)」を出版した。

ロイは50歳。自他共に認めるマオイスト・シンパであり,現代インドでもっとも危険で,もっとも面白い作家である。インド政府のカシミール弾圧を非難し,カシミール住民の自決権を擁護する。大企業の地方住民搾取に対しては,地方住民や彼らを支援するマオイストの実力闘争をやむを得ざる抵抗として弁護する。「銃を持つガンディー」と揶揄されるゆえんである。

体制派にとってロイは許しがたいインド国家の敵である。デリー警察は,ロイに反国家煽動罪(sedition)の容疑をかけ,捜査をしている。体制派民衆は,ロイの家に石を投げつけるなど,嫌がらせをしている。

5月20日の「壊れた国家」出版記念講演会(ニューデリー)でも,体制派が会場に入り込み,カシミール自決反対を叫び,パンフレットを投げつけるなど,45分にわたって講演会を妨害した。

これに対し,ロイは,「彼らにはお金を払ってやってもらったのよ」と軽くいなし,聴衆をどっと沸かせた。なぜこれが受けるかというと,インド政府が,ごろつきに金を払って御用自警団をつくらせ,搾取される地方住民や彼らを支援するマオイストを攻撃させているからである。「金を払ってやらせた」といえば,ぴんと来る。辛らつな皮肉だ。ロイは,話もうまい。

新刊の「壊れた国家」には,先に紹介した「同志と共に歩む」と,マオイスト関係の他の2編が収められているという。日本ではまだ発売されていないが,さっそく予約注文してしまった。いまや私は,ロイの追っかけなのだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/06/07 @ 21:03

カテゴリー: インド, マオイスト, 文化,

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