ネパール評論

ネパール研究会

マオイストの憲法案(29)

第5編 国家の階層構造と国家権力の配分(2)

第62条 州の設立
(1)カースト,言語および地域を基準として,12の自治州を設立。

(2)州の名称と区画は付則(1)による。

(3)州名称の変更は,州議会が2/3の多数をもって決定し,これを連邦議会が2/3の多数をもって承認する。

(4)もし州名称変更が連邦議会で否決された場合は,当該州で住民投票を実施。

(5)州の合併や州境変更は当該州議会が2/3の多数をもって決定し,これを連邦議会が2/3の多数をもって承認する。

(6)(5)について,連邦議会の承認が得られないときは,当該州で住民投票を実施。

(7)(5)および(6)について住民投票が実施された場合,連邦議会は必要な憲法改正を実施。

(8)(3)(4)(5)および(6)に関する規定は,連邦議会で制定。

(9)州都は付則(1)による。州都変更は当該州の議会が決定。

▼付則(1)の連邦区画図

第63条 連邦の首都
(1)連邦の首都は連邦政府が決定。

(2)首都は連邦議会の2/3の多数をもって変更できる。

第64条 地域自治体および地区の設立
(1)地域レベルの政府は,村評議会(ガウンパリカ)と市。

(2)州内の自治体の数と区画の基準は,連邦政府が決定。住民の均質性,地理的・行政的利便性,人口密度,交通,自然資源,文化および共同体を考慮する。

(3)州内自治体の名称,数,区画は州議会が2/3の多数をもって決定。

(4)州政府設立後,1年以内に州内自治体を設立。

(5)(1)の自治体設立までは,現行自治体が存続。

(6)その他,必要な規則は州法により制定。

第65条 特別機構に関する規定
(1)州内のアディバシもしくは言語集団の集住地区または人口密集地は,自治区とする。

(2)極小集団,文化地区,周縁化されつつある民族集団については,民族性/共同体を保護育成するため,その地域を保護区とする。州内の地区についても同様とする。

(3)その他,(1)(2)に含まれない社会的・経済的低開発地区は,特別区とする。

(4)自治区委員会の設置。

(5)自治区の名称と数の変更は,州議会が2/3の多数をもって決定し,連邦議会が2/3の多数をもって承認する。

(6)州議会は,2/3の多数をもって,(2)(3)に定める保護区および特別区を設立できる。

(7)自治区,特別区および保護区に関する他の規定は,州法により定める。

第66条 連邦,地域自治体および特別機構の間の権限配分
(1)連邦=付則(5)に掲げる権限。および,それらにかかる連邦法。

(2)州=付則(6)に掲げる権限。および,それらにかかる州法。

(3)付則(7)の共通リストについては,連邦議会制定の基準に基づき,州議会が必要な州法を制定。

(4)連邦と州は,(1)または(2)の立法権の他に,憲法の定めるところの行政権と司法権を有する。

(5)地域レベル自治体の権限は,付則(8)による。地域法は州法の範囲内。

(6)地域の選挙制評議会は,立法権の他に行政権と司法権を有する。

(7)特別機構としての自治区の権限は,付則(9)による。自治区法は,州法の範囲内。

(8)自治区は,立法権の他に行政権と司法権を有する。

(9)自治区またはアディバシは,連邦および州の政策決定・施行の場への強制的代表の権利を有する。

(10)特別区および保護区の権限は,州法による。

(11)州政府は,(5)(7)に加え,他の権限をも地区レベルおよび特別機構の自治体に付与することが出来る。

(12)連邦議会は,ここに規定するもの以外にも,他の必要な法律を制定することが出来る。

■コメント
マオイスト憲法案第62~66条は,「連邦―州―市・村/自治区・保護区・特別区」の区画方法と権限配分を規定している。

しかし,あまりにも複雑なため文章化はあきらめ,付則に一覧表記されている。付則(5)連邦,付則(6)州,付則(8)市,村,付則(9)自治区。

たしかに,マオイストの意気込みはよく理解できる。全包摂・権力分有民主主義の理念に従い,民族や共同体ごとに地域割りをし,それぞれに最大限の自治権を与える。多元的・多層的権力分割・分有だ。

しかし,こんな複雑な統治システムが本当に機能するか? たとえば,もっとも基本的な州の区画ですら,利害対立で議論が紛糾,合意はほぼ絶望的である。連邦制については,次の拙稿参照:

谷川昌幸「連邦制とネパールの国家再構築」

谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2011/08/08 @ 08:41