ネパール評論

ネパール研究会

ネパール政府,「チベット人虐待」HRW報告に激怒

ネパール政府が,HRW報告書「中国の影の下で: ネパールにおけるチベット人虐待」に激怒している。The Himalayan(3 Apr)によれば,外務省は次のような声明を発表した。

HRW報告書は,「根拠なき悪意に満ちた挑発」であり,ネ中友好関係の破壊が目的だ。人権の名をかたる「余計な政治化」であり,このような愚劣なことは二度とすべきではない。

「ネパールは独立主権国家であり,国際礼譲を受けてしかるべきだ。ネパールは自ら選択して内外政策を決定し,遂行する。」

ネパールは,1951年の「難民の地位に関する条約」にも1967年の「難民の地位に関する議定書」にも署名していない。「しかしながら,ネパールは,自国の社会経済状況からしてこれ以上の難民増加負担には耐えられないとしても,これまで難民を人道的に処遇してきたし,これからもそう処遇するであろう。」(注:国連との間にチベット難民安全通過の「紳士協定」はあるとされている。)

「HRW報告は作り話にすぎず,法的根拠も客観的事実の裏付けもない。・・・・それは,主観的・恣意的なものだ。権利と自由の名を借り,国境を接する2国を関係づけ中傷するこのような企みは,いわれのない差し出口にほかならない。」

以上がネパール外務省声明の要点だが,この激しい怒りには,同情の余地が十二分にあるといってよいだろう。前回も指摘したように,チベット難民問題は,ネパール政府が一手に引き受けるには,荷が重すぎる。そのことへの理解と同情が,HRWや,長文の同趣旨後追い記事を掲載したニューヨークタイムズ(4月1日付)には欠けている。

米国本拠のHRWやニューヨークタイムズが,人権を大上段に振りかざしネパール政府を非難するなら,それに見合うだけのカネを出すべきだ。カネも出さずに,カネを出す中国に抵抗せよとは虫が良すぎる。

チベット難民問題は,繰り返すが,ネパールの,というよりは,むしろ米欧や国際社会の問題だ。その自覚なくして一方的にネパール非難をしてみても,問題解決にはならない。むしろ逆に,ネパールを中国側に接近させ,事態を悪化させるだけだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/04/04 @ 19:36

カテゴリー: 外交, 中国, 人権

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