ネパール評論

ネパール研究会

憲法制定期限切れ

中国南方航空便が天候不良欠航となり広州一泊,1日遅れの22日昼過ぎカトマンズについた。22日は憲法制定期限日,もめてバンダ乱闘かなと覚悟していたら,街はいたって平静,デモもなければ,旗もなし。拍子抜けした。

22日夜,国会生中継を見ると,だだっ広い巨大ホールで議員お歴々があちこちで口論,混乱が続いていたが,どうやらこれは議員特権集団内の内輪もめらしい。紛糾し,もめ続け,問題先送りすればするほど,自分たちの既得権益が守られるという構図。23日付各紙にも,ちらほら,そのような趣旨の記事が出ていた。

常識で考えれば,多数決以外での決着は難しい。包摂民主主義は,要するに少数決(少数派拒否権)。こんな判り切ったことを無視して,包摂民主主義原理主義をネパールに押しつけてきた西洋先進諸国の「民主主義産業」の責任は重大だ。自分たちですら満足に実行できもしないことを,ネパールに押しつけてはいけない。ネパールは,西洋政治のモルモットではない。ただし,包摂民主主義が少数派諸集団の解放,権利獲得に果たした役割は甚大で,そのことを無視するものではない。念のため。

今後の選択肢は,いくつかある:
 (1)1990年憲法への復古
 (2)現行暫定憲法の継続
 (3)暫定憲法から「暫定」を削除し,正式憲法とする
 (4)全党合意可能な骨格憲法の制定
 (5)新憲法の速やかな合意採択を目指すが,困難な場合は,票決方法に合意したうえで,票決により新憲法採択

蛮勇をふるってズバリ結論をいうならば,これらのいずれでもかまわない。憲法といっても,成文規定は,広義の憲法の一部に過ぎない。どの国でも,成文憲法は,様々な解釈や慣行によって肉付けされている。憲法は運用により良くも悪くもなる。成文憲法が重要なことは言うまでもないが,いくら重要であっても,不磨の大典ではない。各勢力がこれからつくる成文憲法を過度に絶対視し,自分たちの要求をすべて最初から新憲法に書き込ませようとすれば,新憲法の制定はいつまでたっても無理だ。そこそこのところで妥協して新憲法をつくり,あとは議会内外の政治闘争により民主的に要求を実現していく戦略をとるべきだろう。ネパールでは,これまでにも成文憲法は比較的容易に何回も改正されてきたのだから。

ネパール庶民は,すでに憲法問題にしらけ始めている。23日付各紙も熱気なし。退却的・消極的ニヒリズムの広がりが感じられる。もう少し様子を見ないとはっきりしないが,このままだと,ある意味では独裁よりも危険な権威崩壊としてのニヒリズムに陥りかねない。

▼過激派男子の拠点,トリチャンドラ校(後方)。閑散としている。対照的に,並びのモスク(前方)は人があふれていた。信者がまた増えたようだ。
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▼過激派女子の拠点,パドマカンヤ校。立看もビラもなし。代わりに業者が韓国語学校のビラを校門横に張っていた。憲法より個人実益。
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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/01/24 @ 13:48

カテゴリー: 議会, 憲法

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