ネパール評論

ネパール研究会

京都の米軍基地(81):「既成事実への屈服」のきざし

京丹後市議会の9月定例会が開かれたが,一般質問で米軍基地を取り上げたのは,なんと2議員だけ! しかも,その質問にも,以前のような鋭さや迫力はみられず,はや「既成事実への屈服」の兆しが見られる。

米軍基地はすでに完成。アメリカ軍人・軍属百数十名が赴任し,Xバンドレーダーは,日夜,騒音をまき散らし,超強力電波を発射し続けている。経ヶ岬米軍基地は,すでに「既成事実」となってしまった。

日本では,いったん事実がつくられてしまうと,それが何であれ,つくられる以前に立ち戻って根本から議論をやり直すことは,多くの場合,きわめて困難である。「既成事実」を前にすると,日本人の批判精神は萎えてしまう。

「すでに出来てしまったのだから」「もうやってしまったのだから」ーーこれは,事実をつくる権力の側の常套句であり,また,そのようなつくられた「既成事実」からの緻密な論理構成は日本官僚の得意とするところである。日本では,いったんある事実がつくられると,その事実を前提として,そこから次々と官僚制的合理性をもって新しい事実が積み重ねられていく。丸山眞男のいう「既成事実への屈服」である。

京丹後の米軍基地問題も,まさしくそうした「既成事実への屈服」の典型例の一つとなり始めた。京丹後では,米軍基地はすでに「既成事実」となり,9月定例議会一般質問でも,基地問題を取り上げたのは共産党の2議員だけ。しかも,これら2議員の質問も,既成事実化の「現実」に押され,精彩を欠き,また論理破綻ではないかと思われるような部分さえみられた。

たとえば,騒音対策や交通安全対策は,改善要望にすぎず,基地への根本的批判とつねに関連づけていないと,基地存続を逆に助長することになりかねない。

あるいはまた,網野町島津での米軍住宅建設に関する質問では,軍人・軍属用住宅(ないし軍属用住宅)という根本的な事実を見据えなかったため,市長答弁にたじたじ,惨敗してしまった。

質問者は,市長の発言「島津連合区の意向調査は法制上,倫理上[あってはならないこと],あるいは人権侵害に当たる」という発言は島津住民の自治への介入だ,と問い質した。これに対し市長は,自治は大切だが,だからといって自治の名で居住の是非を問うことは許されない,これは「働く人の住居」の問題だ,と反論した。

たしかに,もしこれが一般の日本人や外国人の場合であれば,市長のいうとおりである。住民自治の名で「居住の自由」(憲法第22条)を奪うことは,許されない。しかし,島津に建設されるのは米軍住宅であり,そこに住むのは,日米地位協定で様々な特権が認められている米軍人・軍属(ないし軍属)である。いわば,一種の治外法権。彼らは,日本の法には完全には服さず,したがって彼らの居住が地域住民に危険をもたらす恐れがあることは否定できない。米軍住宅は,市長のいうような一般的な「働く人の住居」ではないのである。(参照:米軍基地建設を憂う宇川有志の会「文殊さん定期報告487」9月21日)

質問者は,このような観点から米軍住宅問題を問い質すべきだったが,なぜかそうはぜず,証拠不十分にもかかわらず,もっぱら市長の自治介入にばかり拘泥し,その結果,自治の限界としての人権尊重という市長の反撃に完敗してしまった。

質問者は,鋭い政治感覚とあふれるばかりのユーモアを兼ね備えた,卓越した魅力的な市会議員である。その議員が,なぜこのような勝ち目のない議論をすることになってしまったのか? 

推測にすぎないが,それはやはり既成事実となってしまった米軍基地の重圧であろう。正面からの基地批判は,「既成事実への屈服」文化がはびこる日本,ましてや保守的な京丹後では,もはや受け入れられそうにない。そこで,市長の島津連合区自治への介入という脇道からの米軍住宅問題追及を試みたのだろう。

が,本道あっての脇道,本道を見失うと,たちまち道に迷ってしまう。

京丹後市議会9月定例会 一般質問(クリック再生)
 ■田中邦生(日本共産党)
 2 米軍基地問題について
 (1)米軍基地の騒音対策について
 (2)軍人・軍属の交通安全対策について
 (3)Xバンドレーダーの配備は京丹後の安心・安全を損なう
 ■森 勝(日本共産党)
 1 京丹後市国民保護協議会等と戦争法案(安全保障関連法案)について
 (1)京丹後市国民保護対策本部、同協議会の役割、任務、設置の目的について
 (2)戦争法案、集団的自衛権の行使との関連性について
 (3)自治体、市民に何をもたらすのか
 2 宇川米軍基地と米軍居住地問題について 
 (1)記者会見(6月26日)における発言について
 (2)島津連合区から提出の要望事項に対する対応について

[参照]
京丹後の米軍基地問題:「住民の声、封殺するな」 集会で市長に抗議(毎日新聞2015年08月29日)
 「米軍Xバンドレーダー基地反対・京都連絡会」は28日、京丹後市役所前で基地撤去を求める集会を開いた。同市網野町島津地区の米軍属居住地問題で、島津連合区が住民の意向調査を実施したところ、中山泰市長が「調査結果の公表はあってはならない。住居の問題で賛否を問うこと自体が倫理上、人権上決してあってはならない」と発言したことに対し、「住民の意見を封殺し、民主主義社会を否定するものだ」と強い批判の声が上がった。・・・・

米軍属居住地問題:「調査自体が人権侵害」 京丹後市長、再主張(2015年09月12日 毎日新聞)
 ・・・・島津連合区が住民意向調査を実施したことについて、中山泰市長は「調査自体が人権侵害になる」との考えを改めて示した。・・・・「・・・・住民自治の名の下で人権を傷つけてはならない」と表明した。
 ・・・・市長は「私の公言した考えを島津区長が主体的に受け止め、主体的に判断した」と強調した。

■米軍の子供利用
 150919■峰山こども園(経ヶ岬米軍FB9月18日,子供の顔は引用者削除)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/09/19 @ 20:45