ネパール評論

ネパール研究会

ヤミとコネの功罪

外人が外から見ると,ネパール社会の基底にはまだ「ヤミ・コネ」経済があるように思われる。といっても,暗い面ばかりでなく,そうであるからこそ,ネパール社会が突如苦境に陥っても,崩壊せず,何とか秩序を維持し存続できているのではないだろうか。たとえば,インド「非公式」経済封鎖による石油・ガス不足。

日本のような人間関係の希薄化した大衆社会だと,生活必需品の不足に人々は慌てふためき,パニックとなり,一気に過激な群衆行動に走りがちである。他方,政府も,大衆に選ばれ大衆に依存しているからこそ,大衆群集心理の恐ろしさを熟知・警戒し,何とかして大衆パニック,大衆暴動を回避しようとして焦り,一気に専制化し,強権的経済統制・社会統制に向かう。

そして,こうしていったん専制的権力を握ると,現代大衆国家は,高度に発達した情報技術を駆使して国民すべてを――たとえばマイナンバーなどで――管理し,その専制体制を永続化させる恐れが強い。そこには,権力が見てコントロールできない「ヤミとコネ」はない。現代型専制は,すべてを見て,すべてを支配する。

ところが,ネパールは,まだそのような現代型大衆社会ではなく,「ヤミとコネ」が至る所に伏在し,必要な時には表の機能を効率よく代替する。石油・ガス不足が長期化し,先が全く見通せなくても,人々が,不平不満はあっても,決してパニックにならないのは,そのためだ。「ヤミ・コネ」経済が十分に機能しているのだ。

ガソリンは「ヤミ」ルートで大量に流れ,「コネ」を通して「ヤミ」価格で取引されている。ガソリンは現在正規価格112ルピー(131円)位だが,「ヤミ」では500ルピー前後で売買されているそうだ。

「ヤミ」ガソリンは,まずインドから相当量入っているのではないかと思われる。インドからポリ容器などに入れ,あるいは車やバイクを燃料満タンにして,ネパールに入国し,それを「ヤミ」に流せば,4~5倍のぼろ儲けとなる。やっていると見るのが自然だ。マデシ反政府派がインドからの入国車両・バイクを攻撃するのにも,それなりの理由がある。

一方,ネパールに正規に入ったガソリンについては,それがどれだけ「ヤミ」に流れているかは不明。だが,役得や「コネ」で入手したガソリンを転売すれば,それだけでぼろ儲け――あるいは恩を売ること――ができるのだから,相当量あっても不思議ではあるまい。

こうした「ヤミ」ガソリンは,ミネラルウォーター用容器で受け渡されることが少なくない。1本1リットル。ネパールのプラスチック容器は薄くて弱い。すぐ破れ漏れる。こんな危険な「ヤミ」ガソリンが出回ると,新聞が報道しているように,ときには引火し惨事となる。たしかに異常な事態だが,一方,それによって相当数の車やバイクが「自転車操業」的に動いていることもまた事実である。

このように,「ヤミ・コネ」経済は,不足している物資を,危険を伴いつつも,それなりに効率的に調達し,供給・分配している。高価な「ヤミ」価格でも,それを買える人々に売るという意味では,必ずしも資本主義に反するものではない。

いまの「非公式」経済封鎖のもとで,ネパール政府が,この「ヤミ・コネ」経済以上に効率的に石油を供給分配できるかどうか? 遺憾ながら,はなはだ疑問である。

151129b ■かまどで調理。干し米の油揚げ(食品名?)

151129a ■のどかではある風景(ラトナ公園前)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/29 @ 18:08

カテゴリー: インド, 社会, 経済, 文化

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