ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

ゴビンダ・KC医師のハンスト闘争(6)

5.ハンスト勝利と政権交代以後
(1)「4項目合意」の締結
ゴビンダ・KC医師は7月24日,オリ政権(UML)と「4項目合意」を締結し,ハンストを終えた(*1,2)。

[4項目合意の内容]
 ・政府はこれまでの約束を守る。
 ・各州に国立医大を1校以上設置。ただし,カトマンズ盆地には,10年間,医科大,歯科大,看護大は新設しない。
 ・医科大の授業料の上限設定。国立医科大に無料ベッド枠設定。
 ・すべての医学部・保健学部を対象とする統一試験の実施。
 ・マンモハン・アディカリ病院は国家医学アカデミー(ビル病院)の管轄とする。
 ・カルキCIAA委員長の弾劾は,すでに議会で問題とされているので,それを見守る。

以上が「4項目合意」の内容として報道されているものだが,もしこのとおりとすると,これはゴビンダ医師の要求にほぼ沿うものと見てよいであろう。

むろんこれは「約束」であり,これまでと同様,空手形になる恐れはあるが,それはそれとして,少なくとも形の上ではゴビンダ医師がハンスト闘争に勝利したのである。

(2)「4項目合意」とプラチャンダ首相
ところが,「4項目合意」締結のその日(7月24日),オリ首相(UML)は辞意を表明し,政権を投げ出してしまった。そして8月3日,次の首相にマオイストのプラチャンダ議長が選出された。突然の政権交代。見方によれば,「4項目合意」はどさくさまぎれ,ともいえる。では,「4項目合意」はどうなるのか? 

いまのところ,NC=マオイスト連立プラチャンダ政権は,「4項目合意」を継承する姿勢を見せている。プラチャンダ首相は8月26日,首相官邸でゴビンダ医師らと会い,次のように約束した。

「あなた方の要望はよくわかっている。要望には最大限応えていきたい。」「教育,健康など基本的必要に国家は責任をもつべきだと,私は信じている。しかし,いまの政治文化,行政機構,政策を前提にする限り,これらすべての要望に応えることは難しい。」(*3)

ゴビンダ医師も,プラチャンダ首相の政治的思惑には気づいているので,面会後,こう述べ,予防線を張っている。

「プラチャンダ首相に対し,約束を守り,率先して私の要求に応える努力をしてほしい,と要望した。そして,要求に応えられないならば,次のハンストを始めるに何ら躊躇しない,と釘を刺しておいた。」(*4)

(3)ゴビンダ医師とガガン・タパ保健大臣
プラチャンダ内閣のガガン・タパ保健大臣(NC)は,プラチャンダ首相以上に明確に,ゴビンダ医師を支持している。

ガガン・タパ(40歳)は,王政反対学生運動のリーダーとして頭角を現し,2006年民主化に貢献。以後,NCの次世代政治家として特に若い世代から大きな支持を得ている。制憲議会議員(第一次2008-12,第二次2013-)。2016年8月26日,プラチャンダ内閣の保健大臣に就任。

ガガン・タパは,オリ前政権に対しゴビンダ医師がハンストを開始すると,すぐ駆け付け,連帯を表明した。そして,7月21日,他の2議員(NCのDR・グルンとマオイストのSS・シュレスタ)の支持を得て,ゴビンダ医師の諸要求に関する審議を議会に提案した。彼は,こう述べている(*5)。

「政府はこれまで,医学教育改革に関する様々な合意をKC医師との間で取り交わしてきた。それらの約束が実行されていないのであれば,実行せよと政府に指示するのが,議会の義務である。」

「腐敗を規制すべき憲法設置機関たる職権乱用調査委員会(CIAA)それ自体が職権を乱用し医学教育分野の腐敗を広めていると糾弾される事態になったら,人民代表の最高機関(議会)は,沈黙しているべきではないし,また沈黙していることもできないはずだ。」

「KC医師が提起しているのは,公益にかかわる諸問題だ。それらについて審議し彼の生命を救うため,直ちに行動すべきだ。権威ある議会で審議し必要な解決策を見つけ出さなければならない。私が,この公的重要性をもつ議案を提出したのは,そのためである。」

そして,保健大臣に就任すると,ガガン・タパは8月26日,こう明言した(*6)。

「在野中も,私はゴビンダ医師の訴えを支持してきた。これからは[保健大臣として],彼の諸要求に応えていきたい。・・・・全力を尽くしたい。マテマ委員会報告の実行が決定的に重要だと思う。」

(4)ゴビンダ医師ハンストと党派抗争
ネパールでは,何か事があれば,すぐそれは政争に利用される。ゴビンダ医師ハンスト闘争にも,そうした側面が多分にあるように思われる。

ゴビンダ医師がオリ政権に対しハンスト闘争を始めると,反UMLのNCとマオイストが彼の支持に回った。ゴビンダ医師勝利には,そうした党派抗争力学も,かなり大きく作用していたと見るべきであろう。

もしそうであるなら,新政権のプラチャンダ首相やガガン・タパ保健大臣が,ゴビンダ医師との約束をどこまで守るか,はなはだ心もとない。医療・保健分野には様々な利権が渦巻き,そこには新政権側の人々も多数関与しているからである。

160907■保健省FB(9月3日)

*1 “Four-point agreement forged, Dr KC to end hunger strike,” Himalayan Times, July 24, 2016
*2 “Dr Govinda KC breaks hunger strike,” Republica, July 25, 2016
*3 “PM assures Dr Govinda KC,” Himalayan Times, August 26, 2016
*4 “PM to ‘take initiatives’ to address Dr KC’s demands,” Kathmandu Post, Aug 27, 2016
*5 “Gagan Thapa files proposal of public importance seeking discussion on Govinda KC’s demands at House,” The Himalayan Times, July 21, 2016
*6 “Thapa vows to address Dr KC’s demands,” Kathmandu Post, Aug 27, 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/09/07 @ 16:30