ネパール評論

ネパール研究会

ゴビンダ・KC医師のハンスト闘争(7)

5.ハンストと民主主義
ハンストは,食事を断ち,生命をかけ,自分の要求を社会に訴えかけ,社会を動かし,その要求の成就を図るギリギリの政治行動である。換言すれば,自分自身の生命そのものをかけるハンストは,民主主義が正常に機能しない社会における最後の手段といってもよいだろう。

いまネパールは,ハンストが最も多用される国の一つである。逆に言えば,それだけネパールの民主主義は機能していない,ということになる。

ここでみてきたゴビンダ・KC医師のハンストについていえば,彼の要求は医学教育と医療保健行政にかかわるものであり,本来なら,民主主義の手続きにより政治的・行政的に解決されるべきものである。あえて言うならば,ハンストに訴えざるをえないほど切羽詰まったギリギリの状況ではないように,少なくとも外部からは見える。

だからこそ,政治の場での解決を図れという批判にも一理あるし,それはそうだが政治の場での解決ができなかったから止むをえずハンストに訴えているのだという反論にも一理ある。いずれが妥当か,判断は難しい。

これに対し,先述のガンガマニ・アディカリの場合は,文字通り切羽詰まったギリギリの選択としてのハンストである。夫は2年前(2014年9月22日)ハンスト死している。そのハンスト闘争は,人民戦争後成立した現体制の正当性を根源から問い直すものである(*3)。

ネパール政府は,ゴビンダ医師とは政治的妥協によりハンストを終わらせたのに対し,ガンガマニとはそのような妥協が難しくハンストを止めさせられない。ガガン・タパ保健大臣は9月1日,ビル病院でハンスト中のガンガマニを見舞った。またバンダリ大統領は7月9日,「ガンガマヤを救えキャンペーン」メンバーと会い,訴えを聞いた。しかし,二人とも,ガンガマニに同情しつつも,いまのところハンストを止めてほしいと語るにとどまっている(*1,2)。

160819■ハンスト中のガンガ:8月11日(INSECOnline)

*1 “Gagan Thapa meets Ganga Maya Adhikari at Bir Hospital,” The Himalayan Times, September 01, 2016
*2 “Prez Bhandari urges Gangamaya to end hunger strike,” The Himalayan Times, September 07, 2016
*3 戦時犯罪裁判要求,プラチャンダ首相の覚悟は?(1)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/09/08 @ 16:56

カテゴリー: 社会, 行政, 民主主義

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