ネパール評論

ネパール研究会

トランプ勝利とネパール

ドナルド・トランプの米大統領選勝利に,ネパールも当惑している。

当初,ネパールでも,まさかトランプが当選するとは思われていなかったらしく,記事には落選を見越したような,辛辣なものが多かった。たとえば,PRATYUSH NATH UPRETI, “Trumps of Nepal: Every country has political leaders like Donald Trump and Nepal is no exception” (Kathmandu Post, Sep 18, 2016)。ここで「ネパールのトランプ」とされているのは,まず第一に,大口をたたき,先の選挙の結果を受け入れようとはしないプラチャンダ首相(マオイスト)。トランプは,プラチャンダ首相から学んでいるかのようだという。次は,KP・オリ前首相(UML)。大衆迎合スローガンを乱発し,ナショナリズムをあおった。そして第三に,カマル・タパ(RPP-N)。君主制やヒンドゥー教国家を唱えるオポチュニストであり,RPP議長ですら“タパはネパールのトランプだ”と揶揄しているそうだ。

ところが,トランプが勝利すると,ネパール・メディアは,一転,真剣にネパールへの悪影響を心配し始めた。最大の関心事は,対ネ関与の後退,特に開発援助の削減。次は,海外出稼ぎが難しくなるのではないかということ。また,移民や難民の受け入れ規制も心配されている。

たしかに,トランプの内向きナショナリズムにより,ネパールのような米国にとって重要とは言えない国への関与が低下することは,十分に考えられる。たとえば,John Narayan Parajuli, “What would Trump presidency mean for Nepal?: Limited engagement with countries like Nepal may be fallout of an inward-looking America under Trump”(Kathmandu Post, Nov 10, 2016)によれば,昨年6月に右派政権が成立したデンマークでは,対外関係予算が削減され,在ネ大使館も2017年までに閉鎖されることになったという。これまでネパールに深く関与してきたデンマークが大使館を閉鎖するとはにわかには信じられない事態だが,大使館HPを見ると,事実であった(下記参照)。ネパールは,トランプ勝利により,この流れが加速されるのではないかと恐れているのである。

[参照]デンマーク大使館閉鎖のお知らせ(同大使館HP)
 ・対ネ開発援助は,削減(phase out)していく。
 ・デンマーク大使館も,数年以内に閉鎖する。

161118a 161118b■デンマーク大使館

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/11/18 @ 17:40