ネパール評論

ネパール研究会

得票率3%以上&議席1以上,全国政党の要件

立法議会は3月22日,5月地方選のための改正政党法を可決したが,その中には,全国政党の要件を,比例制で3%以上の得票がありかつ議会に1議席以上を有すること,とする規定が含まれている。いわゆる阻止条項つき選挙制(election threshold)の採用である。

この阻止条項採用が,政府与党やUMLの大政党としての党利党略によるものであることは言うまでもないが,その一方,包摂民主主義選挙の弊害が拡大し,その修正を余儀なくされた結果であることもまた否定できない事実である。

これまでの2回の制憲議会選挙では,包摂民主主義の理念に基づく比例制と社会諸集団クォータ制を採用したため,百数十もの政党が候補を立て,30以上の政党が実際に議会に議席を得た。その結果,選挙は複雑にして煩雑となり経費も著しく増大した。また,この包摂主義選挙により登場した小政党の多くは,国民を代表する公党というよりはむしろ身内政党・コネ政党であり,議会では利権配分による多数派工作の格好の標的とされてきた。議会政治は,混乱し停滞。現状は,包摂主義の現実が効率的な議会制民主主義を蚕食しているといった状況らしい。

今回の阻止条項採用には,このように,政府与党やUMLの思惑のほかに,それなりの理由もあるのだが,小政党の側は当然,猛反発,阻止条項は憲法の包摂民主主義理念に反し,憲法の保障する政党の自由と権利を不当に制限するものだとして,各地で激しい反対運動を繰り広げている。

たしかに,選挙制における阻止条項は本質的に小政党の切り捨て条項であり,論理的には,少数派の包摂を大原則とする2015年憲法の包摂主義の理念には反している。しかしながら,民主主義国でありながら阻止条項を置いている国は少なくない。たとえば次のような国々:
  5%=独,台湾,ニュージーランド
  4%=ノルウェー,スウェーデン
  3%=伊,韓
したがって,阻止条項を置くことが,即,反民主的ということにはならない。政治は実践であり,包摂民主主義を原則とするにせよ,現実政治の場では,他の諸要因をも考慮し,より望ましい現実的な包摂制度の在り方を探り,それを用いることにせざるを得ない。ネパールも,紆余曲折はあれ,結局はそのような方向に向かって前進していくのではあるまいか。

■2013年選挙比例区投票用紙サンプル

*1 “One FPTP seat, 3 pc PR votes necessary to get recognition as nat’l party,” Kathmandu Post, 22 Mar 2017
*2 “Fringe parties boycott House to protest threshold provisions,” Kathmandu Post, 22 Mar 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/03/25 @ 18:34