ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

キリスト教とネパール政治(5)

3.キリスト教会と2017年連邦・州ダブル選挙
(1)キリスト教の急拡大[前掲]
(2)布教の法的規制[前掲]
(3)布教規制撤廃の働きかけ
キリスト教会側は,この憲法や刑法による布教(改宗)規制に対し,2017年連邦議会・州議会ダブル選挙を好機ととらえ,その撤廃を政官界に働きかけた。

国民覚醒党のロクマニ・ダカル議員は8月10日,改正刑法案の改宗(布教)処罰規定を削除するよう要求した。「私には,この国が宗教の自由と人権を守る国際規約に署名していることを忘れ刑法改正を進めている,と思われてならない。・・・・どうか,ネパールは国際法に署名しながら国内法の制定・施行においては別のことをする国だ,などと世界から言われないようにしていただきたい。」(*5)

改正刑法案への大統領署名(10月16日)直前には,「宗教信仰の自由のための国際議員パネル(International Panel of Parliamentarians for Freedom of Religion or Belief [IPPFoRB])」ネパール支部が,10月9~12日の日程で,国際使節団をネパールに招いた。

IPPFoRBネパール支部長はロクマニ・ダカル議員。訪ネ使節団に参加したのは,IPPFoRB運営委員長でカナダ国会議員のデイビド・アンダーソンをはじめ,米欧,ラテンアメリカ,アジアの諸国の国会議員ら。彼らは,ネパールの大臣や議員,市民団体代表者らと会い,宗教の自由の保障を強く要請した(*6)。

また,IPPFoRBのネパール支部長ロクマニ・ダカル議員と運営委員長デイビド・アンダーソン議員は連名でコメント「ネパールにおける宗教の自由―転落の瀬戸際」を発表,次のように現状を厳しく批判し,内外協力して抜本的改革を実現するよう訴えた(*7)。

以下,コメント要旨
訪ネ使節団は,宗教の自由を制限する憲法26(3)条や改正刑法案を見て,大きなショックを受けた。ネパールでは,「この最も基本的な人権が危機に瀕していることに疑いの余地はまずない」。

「改宗を規制する改正刑法案の第9部160条は,正当な宗教信仰の表明を幅広く規制できるものであり,これにより宗教団体の慈善活動も自分の信仰表明でさえもできなくなる恐れがある。・・・・

昨年6月,8人のクリスチャンが,子供たちにイエスを描いたコミックを見せたにすぎないのに,子供たちを改宗させようとしたとして罪に問われた。幸い,彼らは2016年12月,無罪判決を受けたが,もしこの法案が成立し法律となり,憲法が改正されないままであれば,同じような事件がこれからも起きるに違いない。

これは,市民的政治的諸権利国際規約18条の規定に違反している。同条は宗教の自由を各人の基本的権利として明確に保障しており,ネパールは自らの1991年条約法によりその施行を義務づけられている。

新憲法制定を急ぐあまり,政府は,宗教を持つこと,宗教を変えること,そしていかなる宗教をも持たないことですら,個人の権利として保障している国際規約に署名したことを忘れてしまったようだ。ネパールは,国際規約に署名しながら,国内法の制定施行においては全く逆のことをする国だ,などといった評判を立てられないよう注意すべきだ。

こうした状況は変えねばならない。ネパールの市民社会諸団体や議員らは,政府に国際的義務を果たさせるため,さらにもっともっと努力すべきである。むろん,これは極めて重要な闘いであり,国内の人々の努力だけに期待するわけにはいかないが。

70以上の国の加盟者を擁する「宗教信仰の自由のための国際議員パネル(IPPFoRB)」は,全世界の政府に対し,ネパール大統領に圧力をかけ刑法典署名を断念させ,また時機を見てネパール憲法26(3)条を改正させるための努力を,なお一層強化するよう要請する。

これらは,もしわれわれが,この美しく荘厳な山の国において宗教信仰の自由への権利が守られることを確実にしようとするなら,避けることのできない行動である。」(*7)
以上,コメント要旨

こうしたキリスト教会側からの働きかけに対し,政府や政治家らも,報道は少ないものの,ある程度の対応はしているようだ。キリスト教会代表が提出した布教(改宗)規制規定削除要請に対して,デウバ首相は世俗主義を制度化し少数者の権利を守ると語ったし,ディネシュ・バタライ首相顧問も「直ちに対処し選挙前に解決する」と述べたという(*4)。

また,教会関係行事への政官界有力者の参加も少なくない。7月のビリーバーズ教会ネパール教区主教就任式(2017年7月9日)には「新しい力党」幹部ヒシラ・ヤミ(バブラム・バタライ元首相夫人)が出席し,主賓あいさつの中で,こうのべた。「ネパールは世俗国家だが,キリスト教徒は当然享受すべき宗教の自由をまだ享受していない。・・・・すべての人々は,どの宗教,どの社会共同体に属するにせよ,平等に取り扱われるべきだ。」(8)

この主教就任式には,UMLのMK・ネパール議員(元首相),コングレス党のガガン・タパ議員(元保健大臣),国民覚醒党のロクマニ・ダカル議員など,多数の有力政治家が出席している(*8)。

年末のクリスマス集会にも政官界有力者が多数参加した。たとえば,「ネパール・クリスチャン協会(NCS)」・「ネパール教会連盟(NCFN)」共催のクリスマス集会(カトマンズ,12月3日)には,プラチャンダMC党首が出席し,世俗主義の意義について講演した(*9)。

*4 “Nepal PN ‘commits to adress’ Christian concerns ahead of election,” World Watch Monitor Nepal, 8 Nov 2017
*5 “Bill Criminalises Religious Conversion,” Christian Solidarity Worldwatch, 22 Aug 2017
*6 “Not Secular,” Kathmandu Post, 29 Oct 2017
*7 Lokmani Dhakal & David Anderson, “Religious Freedom in Nepal – Teetering on the Edge of a Precipice,” Ratopati, 2074-06-31
*8 “Two New Bishops Installed in Nepal Dioceses of Believers Church,” Believers Eastern Church, 10 Jul 2017
*9 “Christmas Greeting Exchange Program in Conjunction of NCS and NCFN,” Nepal Church com, 2017-12-19

■IPPFoRBホームページ(2017年10月25日)

(4)キリスト教系政党の政界進出
このようにみてくると,ネパールではキリスト教が信者を着実に増やし,地方レベルでは政界へも進出し始めたことがわかる。

中央でも,キリスト教会と政界との関係は日常化し深まりつつあるが,連邦議会に限定すると,キリスト教系政党の進出はまだ見られない。

制憲議会(定数601)では人民覚醒党が1議席(ロクマニ・ダカル)を得ていたが,今回の連邦議会選挙では,定数半減もあってか,下院(定数275),上院(定数59)ともキリスト教会系政党は議席を獲得できなかった。


 ■「キリスト教世界最速成長国ネパール」(The Gundruk Post, 4 Apr 2018) / ビリーバーズ・イースタン教会HP(4 Apr 2018)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/04/05 @ 10:32

カテゴリー: ネパール, 議会, 宗教, 憲法, 政治

Tagged with , , ,