ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

ネパール共産党とドゥンゲル恩赦(2)

2.ネパールの恩赦規定
選挙直前の2017年10月31日にドゥンゲルを収監したディリバザール刑務所は,翌2018年に入ると,共和国記念日恩赦(5月29日)実施の政府方針に従い恩赦候補者名簿を作成,それを2018年5月20日頃,政府に提出した。ディリバザール刑務所からは26人,そのうちの一人がドゥンゲルであった。

ネパールの恩赦は,民主主義記念日(2月19日),共和国記念日(5月29日),ダサイン祭(9~10月2週間ほど)などの祝祭日に行われる受刑者の刑罰免除である。王政期には,文字通り国王の「思し召し」により恩赦が与えられていたが,現在は,内閣の勧告に基づき大統領が実施することになっている。

(1)ネパール共和国憲法の恩赦規定
第276条 恩赦(माफी) 大統領は,有罪判決を受けた者に恩赦を与えることが出来るし,また,いかなる裁判所,司法機関もしくは準司法機関または行政官もしくは行政機関により科せられたいかなる刑をも軽減することが出来る。

【参照】ネパール王国憲法1990年
第122条 恩赦 陛下は,裁判所,特別裁判所,軍事裁判所または他の司法機関,準司法機関もしくは行政機関が科した刑罰に恩赦を与え,またはその刑罰を猶予し,変更し,もしくは軽減する権限を有する。

(2)刑務所法令の恩赦関係規定
恩赦関係法令は複雑であり改変も多いが,英大使館「受刑者の手引き」(*1)や解説記事などによると,現在の恩赦はおおよそ次のようになっている。

内閣:恩赦実施の方針決定
⇒全国74刑務所:それぞれの収監受刑者の中から適格者を選び,恩赦候補者名簿を作成。
⇒刑務所総局:各刑務所から提出された恩赦候補者名簿を集計。
⇒内務省:必要な場合には法務省や法務長官の意見をも聴収し,恩赦名簿案作成。
⇒内閣:恩赦名簿を閣議決定
⇒大統領:内閣勧告に基づき恩赦実施。

(3)恩赦の要件
・刑期の40%以上または65歳以上の場合は25%以上を経過した者(5月6日改正以前は,刑期の50%以上または70歳以上の場合は25%以上を経過した者)
・行状の良好な者
・罰金の支払い。
・病気,心身障害等も考慮。

(4)恩赦対象外の犯罪
残虐非道な殺人,レイプ,人身売買,誘拐・人質監禁,殺人目的放火,組織犯罪,汚職,脱獄,違法薬物取引,詐欺,密輸,外国雇用関係犯罪,保護野生動物関係犯罪,考古学対象物関係犯罪,国家反逆罪,武器弾薬等関係犯罪,スパイ,人道犯罪,ジェノサイド

(5)恩赦要件緩和の理由
オリ政府は,2018年共和国記念日恩赦直前の5月6日,「刑務所規則」を改正し,減刑の上限を50%から60%に緩和した。高齢者も70歳以上から65歳以下に引き下げ,75%まで減刑可能とした。その結果,それぞれ刑期の40%または25%をつとめると,釈放可能となる。この改正は,表向きは,老齢市民法など他法令との調整を目的としたものであろうし,また,より現実的には刑務所過密対策と見るべきであろう。

現在,ネパールには全国に74の刑務所があり,収監総定員は11,500人だが,4月現在,収監総数は17,905人に達している。世界にはもっと過密な刑務所が少なくないし,日本の刑務所も定員オーバーだが,ネパールの場合,居住環境的にも財政的にも過密はもはや放置できない。そこで恩赦要件緩和となったのであろう。

が,それはそうだとしても,共和国記念日直前の恩赦要件緩和は,政権党の大物受刑者ドゥンゲルにとって,あまりにもドンピシャリ,好都合すぎる。5月6日の刑務所規則改正がなければ,禁錮20年のうちの8年余を経過したにすぎないドゥンゲルは,恩赦要件を満たさず,恩赦対象にはなりえなかったはずだ。真偽不明だが,政治的思惑が働いたと見られてもやむを得ない状況ではある。

*1 British Embassy Kathmandu, “Information Pack for British Prisoners in Kathmandu Prisoners pack template – 2015,” 1 July 2015

■ディリバザール刑務所(Google Map)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/07/11 @ 15:22