ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

ゴビンダ医師のハンスト闘争(29)

7.ハンスト:開始から終了まで
(1)ジュムラでハンスト開始
(2)体調悪化
(3)ゴビンダ医師支持の拡大

(4)カトマンズへの強制移送
ゴビンダ・KC医師が,「医学教育令2017年」の継承発展たる「医学教育法」の制定を求めジュムラでハンストを開始したのに対し,オリ共産党政府は,医療格差象徴の場として選ばれたジュムラでの交渉を忌避,彼を首都カトマンズに連れ戻し,そこで説得しハンストを止めさせようとした。政府側は次のように主張した(19日カトマンズ移送後報道も含む)。

オリ首相:①「納税者のカネから給料をもらっている者が,自分に割り当てられた義務を果たしもせず,政府を独裁的などと,どうして非難できるのか?」(7月9日頃,官邸での第2州共産党議員との会談において*46)。②「KC医師は,問題解決ではなく,問題をつくり出そうとしてきた。」そして,様々な勢力がそれを利用し,彼の治療を妨害してきた。医者や公務員が職務を放棄して街頭に出てよいのか? 医学教育法は,議会で審議すれば,修正に応じる用意はある。(7月24日付報道*47)

プラチャンダ共産党共同議長:KCのハンストには慣れっこ。政府は彼の生命を救おうとしているのに,反民主的勢力が彼を殺そうとしている。一個人の街頭運動で決められてしまうのなら,政府も議会も不要。反革命勢力がKCを政治的に利用している。コングレス党はKCの死体を踏みつけ利用するような恐ろしい政治をするつもりか。(7月24日付報道 *47)

GM・ポカレル教育大臣:①医学教育法は議会提出済。「座り込みで何でも変えようとする伝統は終わりにしなければならない。議論してはならないことは何一つないが,解決はハンスト以外の方法で見出すべきだ。」(7月10日付報道*48)②「KC は主権的上院に圧力をかけ自分の命令に従わせようとしているが,これは許されないことだ」(7月11日付報道*49)③7月13日,KCを強制的にカトマンズに連行することもありうると発言(7月17日付報道*50)④7月14日ジャーナリスト協会でのコメント。政府はKCの生命を救いたいと考えている。「天候の回復を待っている。拒否されても,KC医師をここカトマンズに連れてこざるをえないかもしれない。」(*51)

政府は,このような対KC強硬姿勢を維持しつつも,U・ヤダブ保健大臣が7月6日,医師2名,看護師数名をジュムラに派遣した(*52)。が,KCは,地元ジュムラの医師らに看てもらうとして彼らを拒否,退去を要求した(*52,53,54)。また,政府側はKR・バラル教育省事務局長を長とする政府交渉団を派遣したが,この交渉団は政府方針通りKCにカトマンズ帰還を要求するだけであったため,実質的な交渉には入れなかった(*55,56)。

そうこうするうちに,KC支持運動はますます拡大・過激化,政府は追いつめられKCのカトマンズ移送強行に急傾斜していった。カルナリ州政府が7月17日,KAHSでは治療困難だとしてKCのカトマンズ移送を中央政府に要請したのも,おそらく中央政府のそうした意向を受けてのことであろう(*57)。そして,ついに7月19日午前8時ころ,政府はKCカトマンズ移送を発表,軍ヘリをジュムラに派遣した。ヘリは同日午前9時半ころジュムラ軍駐屯地に着陸。(*58)

このヘリによるKC移送の知らせを受け,KC支持派はハンスト中のKAHSに多数集結,移送を阻止しようとした。彼らは,KCに移送を伝えるため訪れたカルナリ州のMB・シャヒ首相,N・バンダリ内務法務大臣らを阻止し,追い返した。

そこで郡当局(B・パウデル郡長)は,治安部隊にKC連行を命令した。抵抗する者には射撃も許可したという。銃使用については,警告はしたが,実際には実弾は発射されなかったようだ。催涙弾は使用。それでも,KAHS付近での激しい衝突により,40名にも及ぶとされる多数の負傷者が出た。(*58,59)

この衝突の知らせを受けたゴビンダ医師は,苦渋の決断を迫られた。彼は,要求が通らなければカルナリで死ぬ覚悟だと繰り返し明言していた――
「ニュース報道によると,政府は私をカトマンズに連れていくためヘリコプターを送るそうだ。私は,この聖なるカルナリの地で死を迎える覚悟をしており,カトマンズには私の要求がすべて受け入れられるまで帰るつもりはない。」(*60)
「7項目要求が満たされなければ,カトマンズには戻らない。たとえ死ぬことになろうとも,ここジュムラで死ぬことを選ぶ。」(*61,62)

ゴビンダ医師の決死の覚悟は,このように明確だったが,それではなぜ彼は,結局はカトマンズ移送に同意したのか? 理由はただ一つ,当局の強硬な実力行使によりKAHS周辺に結集していたKC支持派や治安部隊に多数の負傷者が出始めたこと。当局側は,拡声器を使い,衝突で警官死亡と放送したとさえ言われている。この放送はウソで,実際には警官は釘でけがをしただけだったようだが,もしそうした放送があったのであれば,KCにも聞こえていたであろう(*63)。KCは,こうした犠牲者続出の知らせを聞き,カトマンズ移送への同意を決断せざるをえなくなった――

MB・シャヒ州知事に対し,KCはこう訴えた。「暴力を止めよ,病院破壊を止めよ。こんな暴力を引き起こすくらいなら,カトマンズへ行く。」(*58)

こうしてKCは7月19日,軍ヘリに乗せられ,スルケット経由でカトマンズ(トゥンディケル)へ運ばれた。当初,政府は,KCを近くのビル病院に収容する予定だったが,これにはKCが断固抵抗,結局は彼の勤務先であるトリブバン大学教育病院(TUTH)に移送した(*64,65)。午後4時,KC移送作戦完了(*58)。

TUTHに収容されたゴビンダ医師は,ここでハンスト闘争をさらに継続することになる。

ジュムラ(jumlanepal.blogspot.com)

*46 “Height of cruelty,” Republica, July 9, 2018
*47 “Oli, Dahal spit venom at NC, Dr KC,” Republica, July 24, 2018
*48 “Dr KC rejects PM’s proposal for one-on-one by phone,” Republica, July 10, 2018
*49 “Centre continues to ignore Dr KC’s plight,” Kathmandu Post,Jul 11, 2018
*50 “Govt at last forms team for talks with Dr KC,” Republica, July 17, 2018
*51 “Dr KC to be brought to Capital forcibly: Minister,” Kathmandu Post, 2018-07-14
*52 “Rights bodies urge govt to take care of Dr KC,” Republica, July 6, 2018
*53 DB BUDHA, “Dr KC refuses to see docs from Kathmandu,” Republica, July 6, 2018
*54 Devendra Basnet/DB Budha, “Choice of Jumla was to draw govt attention to Karnali: Dr KC,” July 8, 2018
*55 “Govt forms talks panel led by Education Secy Baral,” Republica, July 16, 2018
*56 “Dr KC says govt is indifferent,” Republica, July 19, 2018
*57 “Dr KC appeals for medical attention,” Republica, July 17, 2018
*58 “40 injured in clash as Dr KC taken by force to Kathmandu,” Republica, July 20, 2018
*59 “Dr KC airlifted from Jumla,” Republica, July 19, 2018
*60 “Fasting surgeon refuses to leave Jumla,” Kathmandu Post, Jul 12, 2018
*61 Devendra Basnet/DB Budha, “Dr KC refuses medication,” Republica, July 10, 2018 *62 “Dr KC’s supporters to foil govt plans to airlift him to capital,” Republica, July 14, 2018
*63 “Police duped Govinda KC,” Nepali Times, August 3, 2018(Onlinekhabar, 30 July)
*64 “Dr KC brought to Surkhet,” Republica, July 19, 2018
*65 “Chopper carrying Dr KC landed at Tudikhel; rushed to Teaching Hospital,” Republica, July 19, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/04/06 @ 18:21

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