ネパール評論

ネパール研究会

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (3)

3.最後の手段としてのハンスト
こうした状況で入管施設収容が長期化すれば,先が見通せず精神的に追い詰められた被収容者の中から,残された最後の手段として,自分自身の生命を賭したハンスト(ハンガーストライキ)に訴える人が出てくるのは当然といえよう。

入管施設でのハンストは,事実,被収容者が増え,収容が長期化するにつれ,増加している。(「ハンスト」は入管用語では「拒食」または「摂食拒否」。)しかも,これらのハンストは,仮放免などの要求が入れられないので長期化し,なかには断続的に続けられ,事実上1か月以上に及ぶ場合もある(*43)。

そうした中,ついに恐れられていたハンスト死が,現実に起こってしまった。大村入管センターでのサニーさんのハンスト死である。

200520d■ハンスト数の推移(*6)

補足ハンスト死後の仮放免増加と「強制治療」
サニーさんのハンスト死をきっかけに,ハンストでの抗議と,これに対応するための仮放免が一時的に増え,その結果,被収容者数も減少している(上図参照)。しかし,たとえ抗議ハンストの結果,仮放免されても,制約が多いうえに,回復すればすぐ再収容されてしまう(*40,41)。

こうしたハンスト死防止のための仮放免は,おそらく一時的な臨時措置であろう。政府は,ハンストをすれば放免される,と見られることを強く警戒している。政府としては,ハンスト死を防止しつつ,収容は送還まで継続しなければならない。そのため政府が採ろうとしている方策が,「強制治療(強制的治療)」や「強制栄養」。政府はいま,抗議ハンストに対し当面は短期仮放免で対応しつつ,いずれは,それを「強制治療」や「強制栄養」の実施により断念させるための準備を進めているのではないかと思われる。

仮放免:「収容令書又は退去強制令書により収容されている者について,病気その他やむを得ない事情がある場合,一時的に収容を停止し,例外的に身柄の拘束を解くための措置。逃亡,条件違反等の場合は。仮放免の取り消しが可能」(*5)。
200520c

*5 出入国在留管理庁「収容・仮放免に関する現状」令和元年11月25日
*6 出入国在留管理庁「送還忌避者の実態について」2020/03/27
*40 「「2週間だけ仮放免」 繰り返される外国人長期収容 「一瞬息させ、水に沈めるようだ」」毎日新聞,2019/11/12
*41 織田朝日「入管施設でハンストを続ける被収容者を苦しめる「2週間のみの解放」」ハーバー・ビジネス・オンライン,2019/11/01
*43 アムネスティ「入管施設で長期収容に抗議のハンスト198人」2019/10/ 08

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/28 @ 14:56

カテゴリー: 労働, 政治, 人権

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