ネパール評論

ネパール研究会

セピア色のネパール(13): しがみつき乗車の懐かしさ

ポカラなど,遠くへは乗合バスで行った。これはこれで,また忘れがたい強烈な体験であった。

1985年春,ポカラ行き長距離バスは,スンダラのダルハラ塔横から,早朝に出ていた。チケットは前日にあらかじめ買い,当日は,かなり早めにバス乗場に行った。

ところが,乗場にはすでに多くの客が来ていて,バスが来ると一斉に駆け寄り,われ先にと乗り込み,あっという間に車内はギュウギュウ詰めの超満員となってしまった。あれあれ・・・・,と呆然となって眺めていると,あぶれた客が次々とバスの屋根に登り始めた。これを見て,私も「まぁ,仕方ない」と観念し,バスの屋根によじ登って,荷物止めパイプにしがみつき,ポカラに向かうことにした。

このような屋根に乗客を乗せたバスは,旅行ガイドで見て知っていたし,訪ネ後は実物を直に何台も見ていた。が,見るのと実際に乗るのとは大ちがい。走り出したとたん,いまにも振り落とされそうで恐ろしく,ふるえ上がってしまった。

 ■バス屋根乗車(Google”nepal bus roof”2023/02/09)

これでは,とてもポカラまで持ちそうにない,と途中下車も覚悟したが,タンコットあたりから客が次々と下車していき,峠に差し掛かる前には,どうにか車内に入ることが出来た。

やれやれこれで一安心とホッとしたが,それもつかの間,つづら折りの険しい山道から谷底が見え始めると,そこには何台か車が落下し,ひっくり返ったままになっていた。あぁ~,車内に入れても安心というわけにはいかないなぁ・・・・と,また心配になってきた。

それでも,夕方前には何とか無事にポカラに着き,そこで一泊,翌朝,「ダンプス~ガンドルン」トレッキングに出かけることになった。

 ■ポカラ行バス:この屋根の上に乗った(1985)

ポカラからダンプス登り口までは,乗合小型車の便が出ていた。早朝,ポカラの北外れの広場で待っていると,ジープがやってきた。すると,ここでも客が,どっとなだれ込み,すし詰め状態。が,このジープ,乗客の重さに耐えかねたのか,あっけなくパンク。仕方なく,エンジン故障修理したての別のジープに乗り換えたが,ここでも私は車内に入れず,今度は前ドア下のステップに足を置き,外から窓枠に手でしがみつき,出発することになった。

ダンプス登り口への道は川沿いのガタガタ,クネクネ悪路。谷底に振り落とされないよう必死でジープにしがみついていたが,橋のないところで川を横切るときは,ハネ水でびしょぬれになってしまった。こうして難行苦行,1時間ほどでダンプス登り口の小さな集落にたどり着いた。

 ■乗車直後パンクの1台目(1985)
 ■故障修理中の2台目(1985)
 ■ダンプス登り口。少女のような姿勢でこのジープに乗ってきた(1985)

このように,ネパールでの乗車体験は,四半世紀以上も前のことながら,いまでもよく覚えている。それだけ強烈な体験だったからだろう。

しかしながら,たしかに強烈ではあったが,全くの未体験というわけでもなかった。むしろ逆に,「あぁ,あれと同じようなことなんだなぁ」と,昔を懐かしく思い出しさえもした。

わが村近辺でも,1960年頃までは未舗装クネクネ・ガタガタ悪路が多く,超満員の客を乗せたバスがヨタヨタ走っていることも珍しくはなかった。ときには,車内に入りきれず,入口ドアを開けたまま,ステップに乗り,手すりにしがみついている客もいた。

また大阪でも,バスや列車に客がわれ先にと,なだれ込むのが常態だった。整列乗車など夢のまた夢。1980年ころ,イギリスに行き,どこでもバスや列車にきちんと整列乗車しているのを見て,「これが異文化なのだなぁ」と驚き,いたく感心したことを覚えている。

ネパールでの乗車口無秩序突進,屋根上乗車,車体しがみつき乗車――いずれも強烈な体験ではあったが,少なくとも私としては,西洋式整列乗車に覚えたような異質・異文化感はなく,むしろ逆に「あぁ,たしかにそんなことをしてきたなぁ」といった,懐かしさを覚えさせてくれるような体験であった。

追補】(2023/02/12)
人間集団の行動様式は,文化であって不変のように思えるが,ときとして短期的に大きく変わることがあるのかもしれない。たとえば,ネパールの乗車マナー。

ネパール大震災(2015)の翌年,久しぶりにカトマンズに行き,バスで郊外と行き来して驚いた。乗車マナーが一変,老人,女性,身障者などの優先乗車・着席が行われており,日本よりもむしろ徹底していると思われるほどであった。

他の路線も同様か,また,その後も継続・徹底されているのかは,最近,訪ネしていないので分からない。もし乗車マナーが変化・定着しているのなら,文化的にも興味深い。

谷川昌幸(c)

Written by Tanigawa

2023/02/10 @ 15:59