ネパール評論

ネパール研究会

ネパール憲法AI探訪(4): 前文の特徴は?

憲法の「前文」は,一般に,その憲法の基本理念・原則を宣言したものである。理念・原則なので抽象的な文言が多いが,その国の憲法=国家構成(=constitution)の基本構造の概観には便利だ。そこで,前回投稿との重複もかなりあるが,ここでは「前文」と限定し,AI先生に尋ねてみた。

1.ネパール憲法のテキスト
ネパール憲法の正文はもちろんネパール語版だが,英訳版も「法委員会(Law Commission)」自身が公告しているので,ネパール語版に準ずるものとして使用してよいであろう。

また,日本語訳については,自動翻訳が便利だ。といっても,憲法前文は高尚にして難解な法文書。句点なしの複文・重文の超長文,美文・名文にして悪文・・・・。読解し翻訳することが最も困難な文章の一つだ。これを自動翻訳ソフトはどう処理するか?

下記は,ネパール憲法前文の自動翻訳例。かなり怪しい部分もあるが,全体としてみると,よく頑張っている。自動翻訳ソフトは,文字通り日進月歩。いくつかの翻訳ソフトで翻訳したうえで比較校正すれば,実用上ほぼ問題ない程度には日本語訳することが出来る。興味深いことに,いくつかの自動翻訳文は,明らかに法学者・法実務家が参加してソフト開発したと思われる,いかにも「法文書」らしい日本文となっていた。隔世の感!

今回使用したAIは,Bing(日&英),Bard(日&英),ChatGPT(Ver3.5,英),Perplexity(英)。これらのうちで,もっとも適切に答えていると思われるのが,ChatGPT。Bard(英)も悪くはないが,以下では,ChatGPT回答の要点を紹介する。

なお,参考のため,要約だが,日本語訳も追加掲載した。

2.ネパール憲法前文の特徴
ChatGPTによれば,ネパール憲法前文は,憲法全体を基礎づける基本的な諸原理・諸価値を宣言している。主要なものは以下の通り。

①国家の主権と独立
②包摂民主主義:ジェンダー,エスニシティ,宗教など属性にかかわりなく全市民(国民)の参加を保障。
③市民的自由と基本的諸権利の保障。
④社会的な正義と平等:社会的格差の削減。
⑤多様性と多文化主義:ネパールの民族的・文化的・言語的な多様性を国家国民の強さの源泉として認め尊重。
⑥世俗国家:国家は特定の宗教を保護せず,全市民に宗教的自由を保障。
⑦ネパール人民のこれまでの闘いの成果の継承発展。
⑧法の支配。
⑨人権の保障。
⑩平和と繁栄。
⑪民主主義の諸価値の尊重:統治の透明性,責任の明確さ,政治への参加など。

一部,重複しているところもあるが,全体として,ネパール憲法前文の要点を要領よくまとめている。

なお,この種の問いについては,日本語よりも英語で質問した方が,はるかに適切な回答が得られる。英語版の方が,参照資料が圧倒的に多いからではないだろうか。生成AIは,参照する言語文化圏の文化程度を反映するらしい。日本語文化圏の衰退? 恐ろしい。

3 「前文」日本語要約

ネパール憲法前文の特徴は,AI先生によれば上記の通りだが,なんせ稀代の超名文にして超長文,かつ超難文にして超迷文の「前文」のこと,さすがのAI先生も難儀したらしく,列挙された特徴も下掲全訳も少々紛らわしい。そこで,旧来の伝統的手法たる人力で「前文」全体を要約和訳しておく。

前文[要約]

われわれネパールの主権者たる人民[जनता]は,
自決権を有する人民として,ネパールの自由,主権,領土,国民的統一,独立および尊厳を堅持し,
ネパール人民が国家,民主主義および進歩のために闘ってきた崇高な歴史的人民運動[जन आन्दोलन]をその尊い犠牲者たちへの深甚な敬意を表しつつ思い起こし,
封建的,専制的,中央集権的および単一国家的な統治制度がもたらすあらゆる差別や抑圧を除去し,
民族[जातीエスニシティ],言語,宗教,文化および地域特性の多様性を認めることにより多様性の下での統一を擁護促進し,また階級,カースト,地域,言語,宗教,性[लैंगिジェンダー]およびあらゆる形の不可触性を理由とする差別を除去することによって経済的平等,繁栄および社会的正義を実現するため,比例的包摂参加原則に基づく平等な社会を建設することを決意し,および
競争多党制人民民主主義[जनताको लोकतन्त्र],市民的自由,基本的人権,定期的成人普通選挙,出版の自由,独立・不偏不党の有能な司法および法の支配をはじめとする民主主義の諸規範と諸価値に基づく社会主義[समाजवाद]を採ることを宣明し,
ここに,連邦民主制による持続的平和,良い統治,開発および繁栄を実現するため,制憲議会によりこの憲法を採択し公布する。

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参照:「前文」自動翻訳結果(修正・訂正なし)

[1]ネパール語⇒日本語(Google翻訳)
序文
私たち、主権者であるネパール国民。
国民の主権、自治、自治権を吸収しながら、ネパールの独立、主権、地理的一体性、国家統一、独立、自尊心を無傷で維持する。
ネパール国民が国益、民主主義、進歩的変化のために繰り返し払ってきた歴史的大衆運動、武装闘争、犠牲と犠牲の輝かしい歴史を記念し、殉教者と行方不明者や犠牲となった国民に敬意を表する。
封建的、専制的、中央集権的、統一的な国家制度によって生み出されたあらゆる形態の差別と抑圧を終わらせる。
多人種、多言語、多宗教、多文化、地理的に多様な特性を受け入れることにより、多様性の間の統一、社会文化的連帯、寛容と調和を保護し促進する。 経済的平等、繁栄、社会正義を確保し、比例的包摂的かつ参加型の原理に基づく平等主義社会を構築するために、階級、民族、地域、言語、宗教、性差別、およびあらゆる形態の民族的アンタッチャビリティを終わらせることを決意する。
競争力のある複数政党制の民主的統治システム、市民的自由、基本的権利、人権、児童参政権、定期選挙、国民の完全な自由の概念を含む、民主主義的価値観と信念に基づく社会主義に取り組むことにより、豊かな国家を建設すること。報道機関、独立した公正かつ有能な司法機関、および法的国家の概念。
我々は、連邦民主共和制の統治システムを通じて持続可能な平和、良い統治、発展、繁栄という願望を実現するために、制憲議会を通過した後、この憲法を発行する。

[2」英語⇒日本語(みんなの翻訳)
前文:
我々、ネパールの主権者は、
ネパールの自由、主権、領土保全、国家の統一、独立及び尊厳を維持しつつ、国民の主権的権利並びに自治及び自治に対する権利を内部化する。
ネパールの人々が時に国家の利益、民主主義及び進歩的な変化のために行った歴史的な人々の運動、武力紛争、献身及び犠牲の輝かしい歴史を想起し、並びに殉教者、失踪者及び被害者である市民を尊重し
封建的、専制的、中央集権的、単一的な統治システムによって引き起こされたあらゆる形態の差別と抑圧を終わらせ
多民族、多言語、多宗教、多文化及び多様な地域的特性を認識し、経済的平等、繁栄及び社会的正義を確保するため、階級、カースト、地域、言語、宗教及びジェンダー並びにあらゆる形態のcastebasedの不可侵に基づく差別を撤廃することにより、比例的で包摂的かつ参加型の原則に基づく平等主義社会を構築することを決意し、社会的及び文化的連帯、寛容及び調和並びに多様な統一を保護し、促進すること。
国民の競争的な多党制の民主的統治制度、市民的自由、基本的権利、人権、成人の参政権、定期的な選挙、報道の完全な自由、独立した公平かつ有能な司法及び法の支配の概念を含む民主的な規範及び価値に基づく社会主義にコミットし、並びに豊かな国家を建設すること。
連邦、民主、共和の統治システムを通じて、持続可能な平和、良い統治、発展及び繁栄に対する願望を実現するために、ここに、憲法制定議会を通じて、この憲法を可決し、公布する。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/08/13 @ 13:24

カテゴリー: ネパール, 情報 IT, 憲法

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