ネパール評論

ネパール研究会

ポスターを見て,自戒新たに

終活「片付け」をしていたら,ネパールの古いポスターを見つけ,いまさらながら自戒を新たにした。

いまから30年ほども前,1990年代の初め,カトマンズで一人の学生さんと知り合いになった。陽気で才気煥発,好奇心あふれる好青年だった。

しばらくして彼の部屋に遊びに行くことになった。ぶらぶら楽しくおしゃべりしながら歩いていくと,数十分で質素な住宅についた。その一室を彼は借りていたのだ。

部屋に招き入れられたとたん,目に飛び込んできたのが,壁に貼られていたこのポスター。「あっ,これは!」と,激しい衝撃を受け,しばらく言葉を口にすることが出来なかった。

学生さんの方は無邪気で,特に含むところがあるわけでないことは,すぐわかった。当時,学生運動が盛んで,デモやストや市街戦をしょっちゅうやっており,過激なポスターや落書きが街中にあふれていた。部屋の壁に貼られていたのも,そうしたアジ宣伝の一つであったに違いない。

事実,学生さんは,何の屈託もなく,チャイやお菓子を出し,楽しく歓談してくれた。

しかし,私の方は,そうはいかない。ネパールをはじめ途上国では,日本は,このポスターに描かれているような国と見られている。北の五大国の一つとして,日本も地球をわがものとし,途上国の人々を貪り喰っている。その日本の国民の一人が,そう,私自身なのだ。

これには心底まいった。そこで,学生さんに無理を承知でお願いし,何とかそのポスターを壁から外し,持ち帰らせていただいた。

このポスターのメッセージこそ,私がネパールで直に学んだ教訓の最たるものの一つであった。

むろん,その後,日本の国力はつるべ落とし,もはや1990年代初めの面影はあるまい。が,たとえそうであったとしても,日本はまだまだ「持てる国」の一つ。その特権的な立場を,このところ忘れがちであった。

そこに終活「片付け」で,このポスターが出てきた。やはり衝撃的。いまさらながら自戒の念を新たにした次第。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 230807a.jpg

*”ASEED”は,カトマンズに本拠を置く青年NGOのようだが,詳細は不明。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2023/08/07 @ 17:03