ネパール評論

ネパール研究会

ネパールのトラ

ネパールにはトラが109匹いるらしい。Dev Raj Dahal, Election and Conflict in Nepal(FES, Aug.2010)の生息調査結果だ。

ダハール氏によると、ネパールの政治社会構造は、いま大きく変化しつつある。バフン=チェットリ=ネワール権力寡占としての伝統的支配は弱体化し、かといって左翼的階級支配に移行することもできず、統治そのものが崩壊に向かいつつある。

その統治動揺をついて激化してきたのが、民族アイデンティティ政治。新憲法には44民族集団が民族権益を書き込ませようとしのぎを削り、法の外では109武装集団がそれぞれの縄張りをめぐり私闘を繰り広げている。トラは野に放たれたのだ。

「ネパールのトラ」と名乗る集団――タライに多い――もあれば、そうでない集団もある。が、いずれにせよ様々な集団が縄張りをつくり、勝手に税を取ったり、法(ルール)を決めたり、自治州(自治区)首長を任命したりと、あちこちでジャングル化を進めていることは間違いない。

トラを放ち、自然なジャングル秩序自生を待つか、それともオリをつくり、トラを囲い込むか? 問われているのは、むしろ教師面をしてネパールにお説教してきた西洋知識人・開発専門家らである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2010/12/24 @ 18:09

カテゴリー: 民族

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