ネパール評論

ネパール研究会

第三の性,公認

5月開始のネパール国勢調査で,男女に加え「第三の性」が正式分類項目に加えられるという(International Daily News, 11 Jan)。ネパールでは,先進国では考えられないような速度で社会規範の弛緩が進み,最も強固と見られてきた男女区分も融解し,ついに「第三の性」公認となった。これについては,以下も参照。
 PLAから学ぶ,ジェンダーフリーSDF
 ネパール秘義政治とインド性治学
 アイデンティティ政治実験の愚
 パルバティ同志,ヒシラ・ヤミ(2e)
 カトマンズ性浄化: Amoral or Immoral

もともと男女間は,あれかこれかの二者択一ではなく,「男らしい男」から「女らしい女」まで,ゆるやかにアナログ変化するものである。それを「男」と「女」にデジタル区分してきたのは,その方が社会の認識・統治にとって便利だからに過ぎない。だから男女二分法をやめ,ネパールのように「男(第一の性)」「女(第二の性)」「いずれでもない(第三の性)」の三区分にしても,その限りでは何ら問題はないわけだ。

しかし,この性の三区分にも合理的根拠があるわけではない。消極的(negative)定義で満足しているうちはよいが,いずれ「第三の性」アイデンティティの積極的(positive)定義に進み,自分たち独自の権利の要求となることは避けられない。そうなったとき,今度は「第四の性」が問題となるであろう。

われわれは,物事に「名前」をつけることによって,それを他から区別し認識する。命名それ自体が他との区別ないし差別を意味しているのだ。

ネパールが「第三の性」を公認し国勢調査項目に入れたり,「第三の性」身分証明書(住民登録証)を発行したりすることは,たしかに人間の因習的定義付けからの解放であり自由の拡大となる。それはそうだが,しかしそれにもかかわらず,「そんなことをやって,どうなるの?」といった疑念が払拭しきれないのもまた事実である。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/19 @ 10:35

カテゴリー: 社会, 人権

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