ネパール評論

ネパール研究会

マオイストの憲法案(6)

4(3)自由権(2)

[1]意見および表現の自由(23条(2)a)
「意見(思想)および表現の自由」は,もっとも基本的な権利であり,日本国憲法は「法律の留保」も「但し書き」も付することなく,この自由を保障している。アメリカ憲法も「言論もしくは出版の自由・・・・を奪う法律を制定してはならない」(修正1条)と定めている。また,中国憲法でも「言論・出版・・・・の自由を有する」と定めている。

ところが,ネパール憲法では,自由(権利)保障を「但し書き」で詳細に限定する伝統がある。同じような「但し書き」をもつインド憲法に習ったものであろう。

■「意見および表現の自由」を制限できる場合
インド憲法(19条(2))
 ⅰ)インドの主権と統合のため
 ⅱ)国の安全のため
 ⅲ)外国との友好関係のため
 ⅳ)公序良俗のため
 ⅴ)名誉毀損,法廷侮辱および犯罪教唆 
1990年憲法(12条(2)(一))
 ⅰ)ネパールの主権および統合を損なう行為
 ⅱ)カースト,民族および社会集団の間の調和的関係を損なう行為
 ⅲ)名誉毀損,法廷侮辱および犯罪教唆
 ⅳ)公序良俗に反する行為
暫定憲法(12条(3)(一))
 ⅰ)ネパールの主権および統合を損なう行為
 ⅱ)カースト,民族,宗教および社会集団の間の調和的関係を損なう行為
 ⅲ)名誉毀損,法廷侮辱および犯罪教唆
 ⅳ)公序良俗に反する行為
マオイスト憲法案(23条(2)(一))
 ⅰ)ネパールの国民性,主権,独立および統合を損なう行為
 ⅱ)カースト,民族,宗教,社会集団および支邦(州)の間の調和的関係を損なう行為
 ⅲ)名誉毀損,法廷侮辱および犯罪教唆
 ⅳ)公序良俗に反する行為
 ⅴ)封建制および帝国主義を利する行為

「意見および表現の自由」は,90年憲法の但し書きでも,その気になれば,権力の思うままに制限できる。ところが,90年憲法を「改正」したはずの暫定憲法には,「但し書き」に「宗教」が追加され,さらにマオイスト憲法案では「国民性(nationality)」「独立」「支邦間の調和的関係」が追加され,さらに封建制や帝国主義まで自由制限の合理的理由として追加されている。

これは自由(権利)保障の強化,憲法の「改正」といえるのか? そうではあるまい。自由制限の理由を盛り込めば盛り込むほど,自由は危うくなる。少なくとも自由保障という点では,90年憲法>暫定憲法>マオイスト憲法案,ということになる。ネパール憲法の自由保障は改悪されている。

マオイストの憲法案(5)
マオイストの憲法案(4)
マオイストの憲法案(3)
マオイストの憲法案(2)
マオイストの憲法案(1)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/03/15 @ 20:24

カテゴリー: マオイスト, 憲法, 人権

Tagged with