ネパール評論

ネパール研究会

Arundhati Roy, Broken Republic

[1]

アルンダティ・ロイの新刊『壊れた国家』を買った。既発表3評論をまとめたもの。
  ・Mr. Chidambaram’s War (Oct.2009)
  ・Walking with the Comrade (Mar.2010)
  ・Trickledown Revolution (Sep.2010)

このうち「同志と歩む」は,発表直後に読み,すでに紹介した。文章中心の取材レポートだったが,この本では,ロイ自身とSanjay Kakによる写真が多数挿入された。いずれも優れた報道写真で,現場の緊迫した状況がさらにリアルに感じ取られるようになっている。

[2]

それにしても,ロイの筆力は凄い。序文(Feb. 2011)は、こう始まる。

大臣は,インドのため人々は村を離れ都市に移るべきだ,という。彼はハーバード卒。スピードを求める。そして,数も。5億人移住のすばらしいビジネスモデルになる,と彼は考えている。

この書き出しだけで,村を追い出された無数の人々の悲惨な運命がありありと思い浮ぶ。

政府・大企業による村民追い出し→都市スラム流入→都市浄化によるスラム流入民追放→帰村(ダム底,鉱山開発,ゲリラ戦争)→都市スラム流入・・・・

ロイは続ける。

大臣は,都市移住民の大半は犯罪者であり,「近代都市では受け入れがたい行動をした」と語った。中流階級は,彼の率直さ,スペードをスペードと呼んだその勇気を讃えた。大臣は,・・・・法と秩序のため警察署を増設する,と語った。・・・・

よい武器を持ち,よい制服を身につけ,よく訓練された新しい警官隊が街をパトロールする。・・・・いたるところにカメラが設置され,すべてが記録されるようになった。・・・・

まだまだ続く。わずか4頁の序文だが。簡潔な文章で,鮮やかなレトリックを駆使し,激しい怒りと告発が繰り出される。

[3]

日本でも,すぐに翻訳され,ベストセラーになるにちがいない。陰湿な検閲がなければ,日本企業も加担しているインド高度成長の裏面が,暴露される。

【参照】
2010/04/23 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(8)
2010/04/22 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(7)
2010/04/21 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(6)
2010/04/19 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(5)
2010/04/18 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(4)
2010/04/16 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(3)
2010/04/14 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(2)
2010/04/11 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(1)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/07/02 @ 12:21

カテゴリー: インド, マオイスト,

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