ネパール評論

ネパール研究会

マオイストの憲法案(32)

第6編 行政(2)

第80条 就任宣誓
(1)(2)(3) 略

第81条 報酬等

第82条 大臣会議の構成
(1)大統領は,自らを議長とする大臣会議(内閣)を組織する。大統領は,比例包摂参加原則に基づき,政党議席占有率に応じた数の大臣を各党の議会議員から選任する。ただし,連邦議会議席占有率5%未満の政党から選任する必要はない。

(2)大統領は,(1)による大臣選任に当たっては,当該政党議会指導者に諮問し推薦を得る。

第83条 大臣会議の構成員数
議会の全議員数の10%以内。

第84条 大臣の解任
(1)以下の場合,大臣は解任
 (a)死去。
 (b)辞職願を大統領に提出。
 (c)連邦議会議員でなくなったとき。
 (d)推薦政党がリコールしたとき。
 (e)大統領による解任動議を議会が多数により可決したとき。
 (f)議会全議員の1/4による不信任動議が議会全議員の2/3の多数により可決されたとき。
 (g)推薦政党の同意を得て大統領が解任したとき。

説明:本条の「大臣」には,副大臣と準大臣も含まれる。

第85条 大臣会議の議決手続き
合意による。ただし,合意が得られないときは,多数決による。

第86条 大臣の責任
大臣は個別に大統領に対して責任を負い,全体として大統領および議会に対して責任を負う。

第87条 副大臣と準大臣
大統領は,第83条に定める人数制限内で,副大臣(state minister)と準大臣(assistant minister)を指名する。

第88条 報酬等

第89条 就任宣誓

第90条 ネパール政府の業務遂行
(1)(2) 略

■コメント
大統領補佐内閣 マオイスト案で興味深いのは,首相を明文規定しないこと。大統領が直接各大臣を選任し,自らが大臣会議(内閣)議長となる。当然,各大臣は大統領に対し責任を負い,大統領により解任される。

首相は,憲法に規定がなくても,慣行により主席大臣,筆頭大臣を置き,首相として扱うことは可能であろうが,それでも成文憲法に首相規定がある場合に比べ,首相権限が不明確,不安定になることは間違いない。

インド憲法では,「大統領を補佐する大臣会議」と,その長としての首相が規定されている。形式的には大統領制であるが,大統領の実権は弱く,実際にはインドは首相が行政権を行使する議院内閣制である。

一方,アメリカの大統領顧問団(内閣)の閣僚(長官)は,大統領の指名と上院の承認によって選任され,大統領に対して責任を負う。閣僚は,議会議員を兼務できない。

マオイスト憲法案の大統領制は,米印いずれの大統領制でもない。

政党代理大臣 また,マオイスト憲法案の大原則,比例包摂参加原則は,大臣選任に当たっても貫徹される。大臣は,各政党の議席占有率に比例して各党に配分され,政党の同意を得て任免される。

こうしたことは,政党政治においては,実際には政治判断として行われることも少なくないが,だからといってそれを憲法に明文規定してしまうと,個々の大臣の自由がなくなり,各政党の単なる代理人となってしまう。しかも,各党比例配分だから,内閣の裁量の余地が少なくなり,内閣として何も決められず,適切な行政権の行使が出来なくなる。また,たとえば小政党でも大臣リコールでいつでも抵抗でき,政権の安定はきわめて困難となってしまう。

マオイスト案は,大統領制と議院内閣制の悪いところを,包摂参加民主主義を媒介として合成したような規定となっている。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/08/16 @ 12:38