ネパール評論

ネパール研究会

革命議会の性差別憲法案

新憲法は取らぬ狸の皮算用となったが、成立しなくてよかったという意見も少なくない。たとえば、ネパリタイムズ社説、 “Mother country: only the Taliban treats women worse,” Nepali Times, #608, 8-14 June. ここで批判されているのが、革命議会の国籍性差別。
 (参照) 民主共和国の国家なき人々: 父と/または母

記事によれば、ネパール人の10%が無国家・無国籍(stateless)。全人口3千万とすると、約300万人が無国籍であり、市民権が享受できない状態にある。

ところが、制憲議会の議員たちは、「革命的憲法」を創るといい、世俗制、ゲイの権利、カースト差別禁止など、超進歩的な案を競って披露しながら、国籍・市民権となると、とたんに父権主義・排外主義となってしまう。

ネパールの女性差別は根深いが、新憲法の国籍条項案は従来の規定よりもはるかに悪い。ネパール人を父と母とする子のみが、無条件にネパール国籍となる。また、父がネパール人、母が外国人の場合も、血統により子はネパール人となる。ところが、逆の場合、つまり父が外国人、母がネパール人の場合は、手続きが複雑となり、国籍取得が困難になる。ほかにも、両親がネパール人であることを立証できない子、いずれかの親が不明な子、父が認知しない子、そして養子など、国籍取得が困難な子が増え、無国籍者が増加する。母と子の権利の無視である。

ネパールの政治家たちは革命的であり、女性を戦いに動員し勝利したにもかかわらず、ジェンダーとなると封建的だ。もし5月27日に新憲法が制定されていたら、このような差別的国籍条項を持つ憲法ができていたことになる。

ネパールの政治家たちが母に権利を認めようとしないのは、インドを恐れているからだ。母の権利を認めると、インド男性が次々とネパール女性と結婚し、子がネパール国籍を取得、インド系ネパール人が激増することになる。

たしかに、その恐れはある。が、だからといってそれが母と子の国籍への権利の否定理由とはならない。国籍問題は、母と子の権利を侵害しない形で解決されなければならない。

ネパリタイムズ社説の以上のような議論は、問題の核心を突いている。しかし、難しいのは、マオイストをはじめとする革命的議員諸氏は、それがわかった上で、そのような議論をせざるを得なかったのではないか、ということ。

おそらくそうだろう。それほど、民族やナショナリズムの問題は難しい。民族州など、安易に唱えるべきではない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/06/14 @ 18:39

カテゴリー: 憲法, 民族, 人権

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