ネパール評論

ネパール研究会

深夜100M移動、奇跡の家

昨日は、ホテルの主人に教えられ、奇跡の家を見学してきた。これは夢幻でも誤魔化しでもなく、たしかに現実に起こった現象である。旧約聖書の人々も、おそらくこの種の超常現象をみて、全能の神の奇跡を信じるようになったのであろう。

キルティプールの丘から南西に歩いて30分くらい、山麓の美しい村に、奇跡の家はある。その家は、丘の上にあったのだが、一家が寝ている間に、100メートルも移動してしまった。

時は2012年9月18日午前1時頃。一家が就寝中ちょっと揺れ地震かと思ったが、たいしたことはなかったので、そのまま寝てしまった。

ところが、朝目覚めると、窓の外の景色が一変、家は丸ごと丘の上から川の近くまで100メートルほども滑り落ちていたのだ。

この家は、おそらく地盤ごと、比較的ゆっくりと移動したのだろう。家本体は、少し傾いているが、基礎部分の柱が一本折れ曲がっているだけで、居住部分は全く壊れていない。だから、一家は流されていることに気づかず、朝まで寝ていたのだろう。奇跡的としかいいようがない。

地理学は全くの専門外だが、この付近の地盤は不安定で、脆そうである。岩盤や岩はどこにも見あたらない。雨期の長雨で土砂の地盤がゆるみ、この大規模な地滑りとなったのだろう。

驚きながら見ていると、環境保護の専門家がやってきて、近くの自宅に招かれ、当時の状況を詳しく説明してくれた。なかなか面白い人物で、チトワンで学部卒業、スウェーデンで修士をとり、以後、環境問題に関する調査研究をやっているとのこと。釧路や名古屋にも国際会議で行ったことがあるそうだ。

彼には、この奇跡の家は地滑りの事例として保存し、研究と教育に役立てるとよいのではないか、と提言した。もちろん素人の思いつきにすぎないが、ネパールでは雨期になると各地で地滑りが多発し、多くの犠牲者が出ている。この奇跡の家のあった丘の上でも、すでに地割れが広がり、近辺の家々が滑り落ちるのも時間の問題のように見えた。地滑り対策は、ネパールの人々にとっては身近な、切実な課題なのである。

そんなことを、お茶をいただきながら、2時間ほどおしゃべりし、彼の家をあとにした。その後、周辺を散策したが、これがまた非常に面白く、結局、夕方まで歩き回ることになった。

そして、夕方、キルティプールの丘に戻ると、大勢の村人が出て、祭り*が始まっていた。楽隊を仕立て、踊りながら、村中を巡る。これも興味深く、昨日は、結局、朝から晩まで、遊び回ることになってしまった。

[*注]これは新しい「バーグバイラブ」の寺院奉納。在住邦人の方に教えていただいた。多謝。

●地滑り現場


 ■遠景。丸印が家。手前はブランコ


 ■遠景。下の家は上の家の隣、同じ平面にあった。

 ■地滑り斜面。家裏より。

 ■家。左手より。

 ■家。右手より。

[追加]豆腐のような丘?(2012-11-11)
昨日からホテルの下、キルティプールの丘の立ち上がる際のところを、ブルトーザーで掘り始めた。校舎を新築するらしい。驚いたのは、いくら掘っても大きな岩や岩盤は全く出てこないこと。畑のような土ばかり。だから、何の苦もなく見る見るうちに丘の斜面は削り取られ平地ができた。キルティプールの丘は堅固な岩盤だとホテル主人は自慢しているが、本当だろうか? もう少し掘り進めば固い岩盤があるのかもしれないが、造成現場を見る限り土砂の堆積にすぎない。いわば豆腐の上に家を建てているようなもの。大丈夫かな?


 ■建設現場を見る関係者

 ■コマツ・ブルで斜面切除。上は昔からの小学校。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/11/10 @ 10:41

カテゴリー: 社会, 文化

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