ネパール評論

ネパール研究会

印外相,訪ネ9時間の意味深

インドのサルマン・クルシード外相が7月9日,空軍特別機でネパールを公式訪問した。当初,2日間の予定であったが,日帰り9時間の意味深訪ネ。

9時間の滞在中,印外相は,ヤダブ大統領,レグミ内閣議長(暫定首相),MP・ギミレ外相と会談し,国境地帯犯罪取締りや逃亡犯引渡条約,そして安全保障や水資源開発,洪水対策などについて協議した。

130711 ■クルシード外相とヤダブ大統領(在ネ印大使館HPより)

インドの対ネ政策は,つねにパキスタンや中国の動きを念頭に置いている。今回も,印外相は,パキスタンのISIや「テロリスト」の動きを警戒し,ネパールを利用したニセ通貨の持ち込みやテロ活動の取り締まり強化をネパール側に要求したらしい。

対テロ対策としては,以前からインド側はトリブバン空港管理のインド委託を要求していた(TIA空港,インド管理へ?)。もしこれが実現すれば,パキスタンばかりか,中国や米国,そしてたまには日本の動きも,事実上,監視できる。ネパールを属国扱いするトンデモナイ大国主義的要求だが,逆に言えば,それだけインド側の危機感は強いということだろう。いまのところ,ネパールはこの要求を拒否している。

しかし,そうはいっても印ネ関係は切っても切れない腐れ縁。ネパールにとって,インドは対外貿易の三分の二,対ネ外国投資の約半分を占め,インド抜きでは生きて行けない。だから,わずか9時間の訪問であっても,ネパール側は大統領,首相,外相が会談し,主要諸政党の党首らもこぞって拝謁の栄に浴した。豪傑プラチャンダUCPN-M議長ですら,シンガポール滞在中にもかかわらず,わざわざ帰国し,はせ参じた。KP・シタウラNC書記長によれば,印外相は「ネパールの政治的安定を保証しうるのは,インドだけだ」と語ったという(THT,Jul9)。いかに屈辱的であれ,これがネパールの現実なのだ。

とはいえ,インド側が大国主義的にネパールを威圧しすぎると,反印感情を刺激し,中国や欧米への接近を招く。今回も,CPN-Mは,露骨な反印・親中行動に出た。印外相訪ネの前夜,モハン・バイダ(キラン)議長とCP・ガジュレル副議長が北京へ向け出国したのだ。日本における反中・反韓以上に,反印はネパールでは国民のナショナリズムを高揚させる。

そういうこともあって,印外相は,かなり重要な援助を約束した。
(1)車両援助 
  内務省(治安対策) 716台
  選挙管理委員会(制憲議会選挙用) 48台
(2)軍事援助
  兵器供与(詳細不明),軍事教育,共同演習
(3)制憲議会選挙支援

インドは,パキスタン・中国を念頭に,制憲議会選挙(11月19日予定)の実施を強く要求している。先日,親中派頭目のバブラム・バタライUCPN-M副議長が辞任したし,選挙反対のCPN-M幹部は印外相訪ネにあわせ訪中した。インドとしては,何としてでも印指導下に制憲議会選挙を成功させ,親印安定政府をつくり,中国の南下パキスタンの「テロ」を封じ込めたいということだろう。

[参照]Indian Times,Jul9; Nepalnews.com, Jul9; The Himalayan Times, Jul9; Telegraph, nd(access,Jul10); People’s Review, nd(access,Jul10)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/07/11 @ 11:25