ネパール評論

ネパール研究会

制憲議会選挙2013(38):先住民族協会,障害者協会等の議席要求

制憲議会の内閣指名議席がまだ決まらない。そうした中,選挙で十分な議席をえられなかった諸集団が,議席割当要求闘争を強化している。

1.NEFIN
最も強硬に議席割当要求をしている集団が,「ネパール先住民族協会(NEFIN: Mepal Federation of Indigenous Nationalities)」。56民族団体が加盟している大きな協会であり,先の制憲議会では218議席,今回選挙でもすでに183議席を獲得している。

NEFINは,いまや弱小社会集団とは言いがたいが,それでも指名26議席のうちの15議席を要求している。理由は,小選挙区制と比例制のいずれでも議席をえられなかった民族は,憲法制定に参加できず,包摂参加原理に反する,というもの(ナゲンドラ・クマールNEFIN議長(会長);ekantipur,12 Feb)。

たしかに,包摂参加を議員選出基準とするなら,クマール議長のいうとおりだ。しかし,もしそうなら,最初からクォータ制(quota s.)ないし留保制(reserved seat s.)で議席を社会諸集団に割り当てておく方が公平だ。有力者との政治取引で議席を配分するのは,不透明であり,民主主義の理念に反する。

140305b ■世界先住民の日:NEFIN

2.NFDN
NEFINより小規模な団体は,議席獲得のため,多かれ少なかれ強硬手段をとらざるをえない。たとえば,「ネパール障害者協会(NFDN: National Federation of the Disabled-Nepal)」。

ネパールの障害者は,政府発表では総人口の約2%だが,NFDNは,実際には15%はいると主張している。そして,内閣指名26議席のうち4議席(男2,女2)を障害者集団に割り当てよ,と要求している。(第1次制憲議会の障害者議員は3名。)

NFDNは,この議席要求を認めさせるため,2月5日から「決死ハンスト(hunger strike unto death)」を決行,その圧力により2月15日,政府を交渉の場に引き出し,合意文書に署名させた。
 (1)政府は諸党と協議し,障害者指名議席実現のため最大限の努力をする。
 (2)決死ハンストは本日で中止する。
  [署名]NFDN議長:S・スベディ/首相府事務局長:SP・シルワル
 (ekantipur, 12 Feb; DPI-AP,”Written consensus between National Federation of the Disabled Nepal and Nepal Government”)

NFDNが自分たちの代表を制憲議会に送りたいと考えるのは当然だし,それは正当な要求でもある。しかし,それを認めた上で,やはり「決死ハンスト」圧力によらざるをえないのは,手続的に民主的とは到底いいがたい。包摂参加原理をとるなら,クォータ議席か留保議席をあらかじめ配分しておくべきだろう。

140305a ■NFDN

3.包摂参加の難しさ
しかし,そのような制度的工夫をしても,包摂参加民主主義には,やはり難しさが残る。それは,社会集団のアイデンティティには不明確さや流動性,あるいは「人為性」ですら,つねにつきまとうからである。自集団のアイデンティティを人為的に強化すればするほど,代表比率を高め,政治的に有利となる。

もしそうなら,包摂参加民主主義は,圧力団体政治と何ら変わらないどころか,むしろ社会諸集団がそれぞれ固有の“本質的先天性”を正当性の根拠とする誘惑につねに駆られるだけに,かえって危険だといわざるをえないであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/03/05 @ 20:49