ネパール評論

ネパール研究会

京都の米軍基地(46):「奥丹」から産軍共同体最前線へ

経ヶ岬米軍基地の造成工事に着手したのは「ミライト・テクノロジーズ・アクティJV」。いずれの会社もまったく知らなかったが,そこはインターネット,おおよそのことはすぐわかった。

 140607b ■BMD整備構想(防衛省HP)

1.ミライト・テクノロジーズ
本社は大阪で,ミライト・ホールディングス(本社:東京)の100%子会社。親会社ミライト・ホールディングスの主要株主(金融関係除く):住友電工19.7%,住友電設3.0%,従業員持株会1.8%。

主要事業:ICT,通信設備,環境,グローバル(ネットワークインフラ等),総合設備
米軍関係事業
  2012年11月02日 厚木基地スタジアム工事 $2,291.066.
  2013年08月13日 厚木基地設備補修 $515.755.

これらの工事はいずれもそれほど大きくはないが,「社長ブログ」では,前者について「この工事は、当社土木事業本部の現場代理人が非常に高い品質の施工管理を行ったとして、SPRING FORUM 2013 26 Aprilにて『最優秀施工品質管理者表彰』を受賞した工事です」と特筆し紹介されている。(SPRING FORUMの詳細不明)

戦前と同様,軍需貢献が,技術と信用の高さの宣伝として利用され始めたようだ。

140607g ■ミライト・テクノロジーズHP

2.ミライト・テクノロジーズとAFCEA
このミライト・テクノロジーズには,LinkedIn(6月7日閲覧)によれば,John Antista氏がVice President of Global Sales & New Business Developmentとして在職されている。部署名,職名の日本訳は不明。とりあえず副部長としておく。

アンティスタ氏は,情報通信関係を中心に業績を上げられているが,その一つが米軍関係。彼自身,こう説明されている。

US Military  
Established and led the organization that deploys large-scale networks on behalf of the US Military in Japan.
Wins in 2013: became General Dynamics primary supplier of services for NETCENTS related network expansion at USAF bases throughout Japan, including Misawa and Kadena, creating new revenue in excess of $11 M; became AT&T’s primary integration partner in Japan for CTS US Army related projects.(www.linkedin.com/pub/john-antista/4a/a20/118/ja)

さらに興味深いことに,アンティスタ氏には,「AFCEA東京奨学会」の副会長としての業績もある。

The Armed Forces Communications and Electronics Association (AFCEA)は,1946年設立の米系NPO。情報,通信,インテリジェンス,安全保障の専門能力向上が活動目的だそうだが,いまのところ具体的にはよく分からない。設立・運営の中心は米軍・米経済界の歴代有力者らだから,米国産軍共同体系のNPOといってもよいだろう。日本にも,沖縄と東京に支部がある。

140607e ■東京支部 AFCEA Tokyo Chapter 171
世界でも有数のプロフェショナル集団であるAFCEAには、4カ国で延べ3万3千人を超える政治・軍事・産業界からの会員が在籍しております。30カ国で約135の支部が有り、高い倫理観とイベント品質が優れている事が広く認識されています。
優良団体と認証されているAFCEAでは、政府の最高指導者・産業界のリーダー・軍事専門家等を代表とし、政府と産業界との橋渡しをしております。(http://tokyo.afceachapter.org/?language=ja)

140607f ■沖縄支部 The Okinawa Chapter
Chartered in 1974. The Okinawa AFCEA Chapter accomplishes the mission of AFCEA International and brings together communications and intelligence professionals from the island’s military, civilian, and industry sectors. It’s a great way to gain not only a joint perspective but an international one too.(http://okiafcea.com/

ミライト・テクノロジーズ社のアンティスタ副部長は,このAFCEAの東京奨学金部門の副会長もされているのだ。事実とすればたいへん興味深いが,以上は,いずれもネット情報にすぎず,評価をするにはもう少し詳しく調べてみる必要がある。

140607d ■AFCEA FB

3.関西経済同友会の防衛産業育成要請
このようにミライト・テクノロジーズ社は軍需とかなり関係がありそうだが,これは同社に限られたことではない。同社をはじめ関西企業が軍需への期待を高めていることは,関西経済同友会の提言「新しい時代の日本の防衛のあり方~日本版国家安全保障会議(JNSC)の早期創設とサイバー防衛態勢の構築を求める~」(2013年5月)をみると,よく分かる。

この提言は,同会「安全保障委員会」がまとめたものだが,そこにはミライト・テクノロジーズも副委員長1名とスタッフ1名を出している。提言の概要は以下の通り。(赤字強調は引用者)

「国家および地域の安定の確保は、円滑な経済活動の基盤であり、経済人は安全保障問題により高い関心を持たなければならない。関西経済同友会では、先ず国民全体が『自分の国は自分で守る』という安全保障に対する意識を持つことが重要だと繰り返し唱えてきた。現在の情勢を踏まえ、以下6項目について提言する。
 ①集団的自衛権の政府解釈を変更すべき ・・・・
 ②「自衛隊海外派遣恒久法」の成立を急ぐべき ・・・・
 ③武器輸出三原則等の弾力的運用を 政府は安全保障上欠かせない国内の防衛産業の維持・育成という視点と日米安全保障体制への寄与という視点を優先し、武器輸出三原則の一層の弾力化を検討してもらいたい。
 ④海洋国家日本に相応しい態勢を整備すべき ・・・・
 ⑤日本版の国家安全保障会議(JNSC)の早期創設を ・・・・
 ⑥サイバー攻撃への対応強化を ・・・・」

これは,安倍首相の「積極的平和主義」そのものであり,したがって強力な安倍政権の成立・継続は,関西企業にとっては願ってもない神風ということになる。

というのも,関西は,家電,繊維,家庭用品などの地場主要産業が急激に衰退し,倒産か,さもなければ生き残りのため本社を東京に,工場は海外へと移転しており,お先真っ暗,もはや防衛産業(軍需産業)にでもすがるしかないような苦境に陥っているからである。

140607a ■航空宇宙工業会「戦闘機の生産技術基盤」(2000年6月)

4.安倍応援団としての産軍共同体
むろん,日本企業の軍需依存は,他の主要諸国に比べ,まだ大きくはない。三菱重工10%,川崎重工6%,三菱電機2.4%,富士重工2.4%,IHI2.4%,NEC1.6%(2008年,wiki)。

しかし,これだけ円安になっても輸出が伸びないのは,もはや日本で従来のような製品を製造しても競争力がなく輸出できないからに他ならない。関西企業の苦境は,多かれ少なかれ,他の地域の企業にも当てはまる。

そこで,関西経済同友会の提言を借りるなら,「防衛産業の維持・育成」「武器輸出三原則の弾力化」が求められるようになったわけだ。

安倍首相は,日本経済界のこのような期待を背にしている。産軍共同体の応援といってもよい。これは手強い。

140607c ■鈴木英夫「岐路に立つ我が国の防衛産業」(RIETI,2013年1月)

5.最先端の経ヶ岬
経ヶ岬は,これまで「奥丹の後進地」であったが,Xバンドレーダー基地のおかげで一躍,日米安保の最前線,日米産軍共同体の最先端モデル地域となった。

Xバンドレーダーは本当に有効か? 迎撃ミサイルの当たる確率(撃墜確率)はどのくらいか? そんなことは,産軍共同体にとっては,どうでもよいことだ。「当たる(はずだ)」と想定することにより,莫大なカネが軍需産業に流れ,産軍共同体は潤い,大きく育っていく。そして,それを基盤に「積極的平和主義」政党も支持を拡大し,政権は安定する。

万事めでたし。反対の理由など,どこにもない。

谷川昌幸(C)