ネパール評論

ネパール研究会

高知の性政治

全国の自治体が,国民健康管理の「生政治」にとどまらず,いまや恥も外聞もかなぐり捨て,“産めよ殖やせよ”の「性政治」に狂奔している。

1.高知の桃色路面電車
とりわけ,ビックリ仰天したのが,たまたま訪れた高知の性政治。高知を走る路面電車に,高知県がピンク色公告を貼っているのだ。(撮りそこねたが,この写真の電車よりもっとド派手な電車も走っていた。)たまげた。
 ▼車外:桃色の出会い系宣伝板取り付け
 ▼車窓:ハート多数貼付
 ▼車内:県公認出会い系サイト宣伝「高知で恋しよ!!」
     「高知県が運営する恋と出会いの応援サイト」
     「出会いイベントの情報・申込み」
     「高知の出会いと結婚応援団」
     「高知出会いのきっかけときめきパーティー」

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 ■電車外側貼付看板/ハートだらけの車窓

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 ■車内ポスター/同左拡大

2.少子化対策
このような性政治は,高知県だけでなく,他のどの地方の自治体も多かれ少なかれ行っている。旗振りは,いうまでもなく中央政府。いわゆる「少子化対策」がそれで,2013年度補正予算に「地域少子化対策強化交付金」30億円を計上。都道府県4000万円,市町村800万円。実施例は,いずれも見るもバカバカしく気恥ずかしい,ピンクなものばかり。たとえば,静岡県の大学生恋愛対策。他県については,下記「資料」参照

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 ■秋田県少子化対策局HP/島根県少子化対策推進室HP

3.恋と性の国家管理
そもそも恋愛や性はプライバシー(私的領域)の中でも最も私的なものであり,公権力による介入は許されない。公権力は公開と公的コントロールに服すものであり,私的領域の守られるべき秘密と自由を保護するためにこそあるといってよい。

そうした私的領域の秘密を必要としないのは,神か動物であり,断じて人間ではない。公然と性行為をしても動物や神々は全く恥じることはないし,またキリスト教の唯一神はそもそも性交渉を必要とはしない。ただ人間だけが,隠れてコソコソ性行為をする。それは人間の宿命であり,その秘密と自由を失えば,人間は人間ではなくなる。

現代の生政治=性政治は,人間の私的領域の秘密と自由を放置できない危険とみなし,その領域に介入し,公的支配に組み込もうとしている。その典型が,日本国政府の「少子化対策」だ。

この「少子化対策」は,戦前・戦中の「産めよ殖やせよ」政策よりも危険ですらある。以前は,少なくとも結婚までは,親や親戚近隣縁者らが男女の仲を取りもった。たしかに国策としての様々な奨励や誘導はあっただろうが,大学生に恋の手ほどきをするほどの,恥ずかしいところに手の届くような手厚い公権力介入ではなかった。

ところが,現代日本の「少子化対策」はそうではない。いまでは中央や地方の公権力が,公金(税金)を使い,そもそもの初めから「出会い」の場をあてがい,男と女を引き合わせ,結婚させ,性行為を促し,子を産ませようとしているのだ。 

万人監視の公開と強制を本質とする公権力が,秘密と自由を本質とする男女の性行為を終始コントロールする! 恋と性の国家管理!

国家や地方自治体の「少子化対策」は,いかにソフトなピンク色のものであれ,本質的に私生活への不当な権力介入であり,人間の人間的な自由に反する。

4.その先には何が?
それでも,日本は「少子化対策」にむけ大きく舵を取った。そして,今日も高知では,ハートをちりばめた桃色の「出会いと結婚応援団」電車が,街中を走り回っている。いったい私たちは,どこに向かって進んでいるのであろうか?

140922d ■高知県少子対策課HP

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[参考資料]結婚に向けた情報提供等(内閣府HP)
茨城県】結婚に関して悩みを抱えるすべての方からの相談対応 。本人のみならず親、親戚、友人等すべての方からの悩みや疑問に答える相談窓口を開設する。
香川県】親世代を中心とした理解の促進。 親世代を中心に広く県民に「結婚活動をしないと結婚できない時代」という現状についての理解を深めるとともに、親や地域の一員ができることを紹介するシンポジウムを開催。
岡山県】結婚応援者のスキルアップ、ネットワークの強化。様々な結婚支援の取組を行い高いスキルを持つ団体が、結婚支援NPOや行政担当者、市町村の結婚推進員等の結婚応援者のスキルアップのためのセミナーを行うとともに、関係者間のネットワークの強化を進める。
広島県】結婚に向けた行動促進、企業内の推進役によるサポート。 会員登録制による直接的な意識啓発により自らの行動を促進するとともに、企業内の推進役によるサポート、サポーター同士の交流を行う。
富山県】企業との連携による結婚支援の取組。 結婚希望男女の情報を一元化し、効果的なマッチングを行うとともに、県と企業との結びつきが強いという強みを活かし、企業の人事担当者を対象にした従業員に対する結婚支援のノウハウ等のセミナーや、企業からの推薦を受けた結婚希望者等を対象としたセミナーを行う。
徳島県】企業、団体、県人会等とのネットワークの構築。企業・団体、在京、在阪の県人会、地域のNPO、農協、漁協等のネットワークを構築し、従業員や会員等に対する、地域の実情に応じた未婚男女へのマッチング支援、情報提供、相談対応等を行う。
静岡県】大学生による大学生のための少子化対策(恋愛、結婚等)。大学生が、同世代の大学生のために、恋愛や早期の結婚を意識させるための企画から実施までを一貫して行う。
埼玉県】未婚者に対するライフデザイン構築の支援。 未婚者を対象に、結婚や家庭を持つことの意義を啓発するとともに、妊娠・出産・育児等に関する正しい知識の普及を行うことで、受講者がライフデザインを構築できる支援を行う。
愛媛県】成婚に至ったモデルなど好事例の取りまとめ、発信 独身者及び婚活支援者向けの講座を開催するとともに、これまで県の結婚支援センターの事業で蓄積された事例から、成婚に至ったモデル、独身者への好アドバイス等の事例の取りまとめ及び発信を行う。
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[引用者コメント]
最高学府の大学生の恋を公権力が支援。手引きされなければ,恋もセックスも出来ない! それで大学生?
②「マッチング」はカタカナ英語。世間では,イヌネコを掛け合わせる場合などにもよく使われる。
③「結婚希望男女の情報を一元化」。こんなことにまで公権力が関与してよいのか?

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/09/23 @ 17:40