ネパール評論

ネパール研究会

本格予算案、政府が強行準備

日本と同様、ネパールでも予算を巡り、政治が行き詰まり、先が見えなくなってきた。ekantipur(31 Oct)記事は、次のように述べている。

ネパールでは、予算を審議・可決すべき議会が任期切れで消滅してしまい、現在は無議会政治。次善の策たる全党合意もほとんど絶望的。

この状況で3ヶ月の現行暫定予算の期限が、11月15日に切れてしまう。そこで、切羽詰まったマオイスト主導政府は、政府が本格予算案を作り、ヤダブ大統領の認証をえて、これを11月16日から施行するつもりだという。

アグニ・サプコタUCPN報道担当:「10月31日予定の諸党幹部会議で合意が得られなくても、政府は本格予算を準備し大統領に提出する予定だ。」

マオイスト政府は、この政府予算案を大統領は認証せざるをえない、と考えている。たしかに、通常であれば、その通りだが、今回は議会可決がない。全党合意もない。その意味では、大統領には予算案認証拒否の正当な理由があるといえよう。

もし大統領がコングレス党やUMLの圧力により政府予算案を拒否すると、金欠により政府崩壊、あるいは大統領によるバブラム・バタライ首相解任という事態になる。いずれも、憲法上やってやれないことはないが、もしこの大統領「大権」を行使すれば、大統領は1990年憲法の国王に限りなく近づく。大統領の独裁である。

この可能性にたいし、サプコタUCPN報道担当は、「もしそのような事態になれば、人民に訴え人民による問題解決を目指す」と警告している。「人民運動」再開である。

マオイスト政府には、切実な事情がある。政府は、UNMIN登録後の資格非認定戦闘員に対し、一人当たり20万ルピーを給付する約束をしている。マーティン元UNMIN代表*によれば、約31000人が戦闘員登録申請し、その約40%が審査により無資格とされ、最終的に19602人が人民解放軍戦闘員として認定された。これ以外の、給付金20万ルピーの対象たる非認定戦闘員がどの範囲か、定かではないが、計算上、相当額になることは間違いない。本格予算が通らなければ、到底支給できない。(なお、人民解放軍正規除隊者13922人には、一人当たり50~80万ルピーの給付金の支払いがほぼ完了している。)[資格非認定戦闘員は約4000人。Republica, 5 Nov]

* Martin, Ian,”The United Nations and Support to Nepal’s Peace Process: The Role of the UN Mission in Nepal,” Eisiedel, von S., D.M. Malone & S. Pradhan ed., Nepal in Transition, Cambridge UP, 2012, pp.201-231.

アメリカ独立革命が同意なき課税への抵抗から始まったように、予算作成・課税徴収・予算執行は、民主主義国家の基礎である。もし議会なし・全党合意なしで予算案が通るなら、どう言い訳をするにせよ、それは独裁政治である。民主主義の形骸を持つだけ、国王独裁よりたちが悪い。

予算の面でも、ネパール政治と日本政治は近接してきた。もっとも、当面は、天皇制廃止とはならないだろうが。


  ■ラトナ公園バス停前

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/11/02 @ 13:11