ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

震災救援の複雑な利害関係(9):単一窓口政策と首相基金(1)

1.単一窓口政策
ネパール政府は,巨額の震災救援金・復興支援金が,相当長期間にわたり,国際機関,外国政府,INGO,NGO,その他様々な団体や個人からネパールに入ってくることを見越し,それらを主権国家として監視し統制するため,「単一窓口政策(One-door Policy)」を宣言し,救援金を管理するための「首相災害救援基金(Prime Minister Disaster Relief Fund)」(以下「PMDRF」ないし「首相基金」と略記)を設置した。

UK・カトリ首相報道官は,内外の様々な機関や団体がネパール政府を無視し勝手に募金活動をしていることに問題があると指摘し,こう述べた。「個人にせよ団体にせよ,救援金の引き出しは許されない。基金はPMDRFに自動的に移され,収支明細は日ごと配布される。この規則を守らない個人や団体は,法により処罰されることになる。」[a}

ネパール中央銀行(Nepal Rastra Bank)も,各銀行に対し通知を出した。「大地震被災救援募金のため銀行や他の金融機関に開設されたすべての口座は,チェックされ,それらの口座の預金はPMDRFに移される。」[b]

RS・マハト財務大臣は5月1日,これが「内外の救援物資や資金を最も効果的に使うための政策」であるとし,募金関係口座の残高を毎日通知させるようにしたいと述べた。(b&c)

こうした政府の方針に基づき,首相基金のNG・マレゴ事務局長は5月2日,「単一窓口政策」ないし「PMDRF(首相災害救援基金)」の目的について,こう説明した。

「基金は,被災者への一つの窓口サービスの提供を目的とする。これにより,募金を統合し,重複を避け,被災全地域の被災者への必要な救援の公平な配分を確実にすることができる。・・・・政府は,うそ偽りでなければ,あらゆる被災者救援活動を評価するが,その一方,災害救援のための公的基金や募金を調整する義務もある。これにより,善意の募金の悪用を防止し,被災者の権利を保護することになる。」[d]

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2.単一窓口政策批判
しかしながら,この「単一窓口政策」は,発表されるとすぐ,内外で激しい反発を呼び,撤回を強く要求された。以下,いくつか紹介する。

Alex Wilks(Avaaz, 独)
「首相救援基金は良策に見えるが,腐敗はどうするつもりか? 私はネパールには行ったことがなく,目にした情報による偏見かもしれないが,募金を政府に渡すと行方不明になりかねないと懸念する人がいることも事実だ。」[c]

国連幹部職員(匿名)
「ネパール政府は,いかなる募金であれ,それと協力する以外に方法はない。PMDRFを強制したくても,援助側は決してそれを許さないだろう。ネパール政府には,そんなことをする能力はない。これが現実だ。」[f]

英国NGO幹部(匿名)
「[PMDRFを強制すれば]救援金が減るか,さもなければ違法な方法で入ってくるだけだろう。・・・・いった何人の人がPMDRFに募金を入れてもよいと思うだろうか。・・・・はっきりするまで,しばらく募金活動の中止を提案するつもりだ。」[f]

Anand Mishra (Operation Relief Nepal)
「もっともっと募金を集められるが,海外の誰もが募金をネパール政府に送ることは望まず,そのため外国の友人たちは一人として援助できないでいる。」[g]

Anuradha Koirala (Maiti Nepal)
政府は「単一窓口政策をとるのではなく,すべての人びとに許可を与える」べきだ。「政府に渡して,それが苦しんでいる人々に届けられるかどうか,信用できない。」[h]

Malvika Subba (Nepal Share; Miss Nepal 2002)
「政府が,われわれNGOなどあらゆる団体に規則や規制を課すのなら,政府自身が透明性と説明責任をもつべきだ。」[h]

Kunda Dixit (Nepali Times)
「第一に,PMDRFは実行不可能だ。第二に,それは無実の人々を犯罪者にさえしてしまう。そして,そもそもそれは必要ですらない。なぜなら,いまは危機緊急時であり,得られる援助はすべて得たいと思っているからだ。」[h] (ただし,同氏の後日の説明によれば,PMDRFへ移されるのは震災救援目的でつくられたNGOへの送金だけであり,震災以前からの登録NGOは従来通り外国からの送金を受けられる。また被災地の地域組織への在外ネパール人や外国人からの送金も規制されないという。[d])

Robin Sitoula (Samriddhi, The Prosperity Foundation)
「政府は繰り返し政府口座への寄金を要請したが,支援者側はこれを拒否し,自分たちで寄金を集め始めた。そこで政府は,新しい法律をつくり,救援金を一本化しようとしているが,これは政府の信用の欠如を覆い隠そうとするものに他ならない。」[c]

150522d ■震災死傷者数(5月21日現在,Earthquake Relief Portal)

[a] “Nepal aid donors may halt fundraising amid fears government will seize donations,” The Telegraph UK, 1 May 2015.
[b] “Govt to take all bank deposits meant for disaster relief,” Ekantipur,1 May 2015.
[c] “‘One-door’ Relief Fund Policy Delays Aid Distribution,” Republica, 1 May 2015.
[d] “Nepal quake fund move is PR fiasco,” 5 May 2015. http://www.irinnews.org/report/101452/nepal-quake-fund-move-is-pr-fiasco

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/22 @ 19:48

カテゴリー: ネパール, 行政, 国際協力

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