ネパール評論

ネパール研究会

国連人権理事会で印批判,カマル・タパ副首相

カマル・タパ副首相兼外相が11月4日,ジュネーブ開催の国連人権理事会第23回会議(THE 23RD SESSION OF THE UPR WORKING GROUP,UNHRC)において,ネパール憲法の先進性を訴え,インドの経済封鎖を非難した。

 151106f■タパ副首相UNHRC演説(11月4日,ネ外務省FB)

タパ副首相は,高らかに,こう宣言した。「我が国の基本法[憲法]は,多民族,多言語,多文化,地理的多様性を踏まえたものであり,諸個人,諸集団,諸社会のあらゆる権利を守るものである。」(Kathmandu Post, 5 Nov)

したがって,マデシらの憲法非難は,まったくの的外れ。ネパール憲法は,人間の尊厳,アイデンティティ,万人の平等な機会を保障し,ジェンダーについても,積極的是正措置をとるなど,包摂的だ。ネパール憲法には,マデシらの言うような差別や不平等はない。

また,タパ外相によれば,ネパール憲法は内発的なものであり,問題が見つかっても自国内の努力で平和的に解決できる。

したがって,外国(「インド」とは明示せず)の介入は,「問題を紛糾させるだけ」。ところが,いまネパールは,外国による経済封鎖により「理不尽で深刻な人道危機」にある。「ネパールは,国際法が内陸国に認めている権利と自由の行使を著しく妨害されてきた。」「物流の遮断,通過の遮断は,いかなる口実をもってしても認められない。」(Ibid.,5-6 Nov)

さすが雄弁のカマル・タパ。愛国ナショナリストの本領発揮だ。

ところが,このタパ演説に対し,直接「インド」と名指しされてもいないのに,インド代表が異例の反対演説を行った。「大臣閣下の言及された妨害は,ネパール国内の反対派がネパール国内で行っているものだ。」しかも,ネパール治安部隊は行き過ぎた実力行使により,多くの死傷者さえ出している。

このようなインドの反論は,国際社会の多数意見をバックにしている。スウェーデン,スイス,ベルギーなど人権先進民主主義諸国や,「人権監視」,「アムネスティ」などの人権擁護諸団体は,ネパールにおけるマデシ,タルー,ジャナジャーティ,女性などの差別を糾弾し,治安当局の過剰な実力行使を非難してきた。インドはいま,その国際社会の多数派の側に立ち,「非公式経済封鎖」によるマデシ闘争「非公式支援」を正当化しようとしている。

が,本当に,これでよいのか? ナショナリズムは,どの国においても恐ろしい。いかに人権や民主主義の正義が名目とはいえ,行き過ぎた外圧はネパール国内に鬱屈した不満を蓄積させていき,いつかは爆発させることになりかねないだろう。

 151106e151106d■UNHRC(同HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/06 @ 20:16