ネパール評論

ネパール研究会

カルキCIAA委員長,任命違憲判決により失職

「職権乱用調査委員会(CIAA)」のロックマン・シン・カルキ委員長が1月8日,最高裁の任命違憲判決により,失職した。
【参照】カルキCIAA委員長,瀬戸際(1) (2) (3) (4)

カルキ委員長については,これまで議会での弾劾裁判と最高裁での任命違憲裁判がほぼ並行して進められてきた。議会では,代議院議員157人が2016年10月19日,カルキ委員長弾劾動議を提出し,これが受理されたため,カルキ委員長は職権行使を停止され,翌20日,最年長委員が委員長代行に選任された。しかし,その後,議会での弾劾手続きは進まず,棚上げ状態となっていた。

最高裁の方には,オム・プラカシ・アルヤル弁護士が2015年5月16日,カルキ委員長は憲法238(6)条に規定の資格要件を満たしていないとして,任命取り消しの訴えを出した。最高裁はこの訴えを棄却したが,その後,最高裁長官がスシル・カルキ氏に交代すると,一転,2016年9月,アルヤル弁護士の再審請求を受理して審理を開始,この2017年1月8日,ロックマン・シン氏のCIAA委員長任命を無効とする判決を言い渡したのである。

こうしてロックマン・シン・カルキ氏は,CIAA委員長の職を解かれ,1月15日,トリブバン空港から,息子の住むカナダに向け出国した。

今回,CIAA委員長を解任したのは,議会ではなく,最高裁である。解任それ自体は,ロックマン・シン氏が「職権乱用調査委員会(CIAA)」の委員長職権を繰り返し乱用したと見ざるをえず,妥当であろう。しかし,最高による任命違憲判決という形での解職(失職)には,疑問を禁じ得ない。CIAA委員長は,首相を議長とする「憲法会議」の推薦に基づき,大統領が任命する。CIAA委員長人事は,高度に政治的な事柄であり,したがってその解任は議会の意思(決議,弾劾など)によるのが本来の在り方であろう。

ネパールでは,議会が本来の役割を果たさないため,最高裁が介入する場合が少なくない。日本のように,最高裁が「統治行為」認定を乱発し憲法判断を安易に回避するのも問題だが,ネパールのように最高裁が過度に政治化することにもまた別の危険があると言わざるを得ないであろう。

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*1 “The end of Karkistocracy,” Nepali Times, 13-19 Jan, 2017
*2 “Lokman ineligible to head CIAA, rules SC,” Kathmandu Post, 8 Jun. 2017
*3 “Lokman disqualified,” Nepali Times, 8 Jan. 2017
*4 “Nepal Supreme Couort removes Lok Man Singh Karki from CIAA,” South Asian Monitor, 9 Jan. 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/01/21 @ 16:08

カテゴリー: 行政, 議会, 憲法

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