ネパール評論

ネパール研究会

「使える英語」とカタカナ英語:リスキリングのリスク(1)

1.岸田首相「リスキング」答弁,炎上
岸田首相が1月27日の参院本会議で,「この[産休・育休]間にリスキリングによって一定のスキルを見つけたり学位を取ったりする方々を支援する」と答弁した。たちまち,巷では非難ごうごう,大炎上!

私も,この答弁をテレビニュースで聞いて,「まさか!」と,ビックリ仰天した。リ(re繰り返し)キリング(killing殺すこと)による一定のスキル(skill技能)の習得を支援するとは,いったい全体どういうことだ。軍事費倍増の前に,殺人の繰り返しよる殺人技能の開発を図るということか!?

まさかと思って新聞でよくよく確かめると,「re」と「killing」の間に,ちっぽけな無声子音「s」が入っていた。たった1字だけ!

しかも,日本人にとって,「リ(re)」と「キル(kill)」は比較的自然に聞き取り発音できるが,その間に「s」が入り「リsキリング」となると,日本語になじまず,聞き取りも発音も難しい。まったく日本語らしくない! 日本人の私が,「s」を聞き損ね,「リキリング(繰り返し殺すこと)」と聞き取ったのは,きわめて自然な,当然至極のことなのである。

それでは,岸田首相は,日本国民の代表たる議員の,そのまた代表として,国権の最高機関たる議会において,なぜ主権者たる国民の多くにとって聞き取りづらく,たとえ聞き取っても外来語辞書を引かねば意味がよくわからないような,珍奇なカタカナ英語を使ったのか? 演説内容以前に,日本国の首相としては,失格ではないか?

不可解に思い,改めて岸田首相の国会演説(2022/10/03)そのものを読んでみた。すると,驚いたことに,耳慣れないカタカナ英語やローマ字略語が,おびただしく使用されていた。たとえばーー

インバウンド,イベント,メリット,スキル,リスキリング,サイクル,パッケージ,フリーランス,イノベーション,スタートアップ,GX ,DX,エコシステム,グリーン・トランスフォーメーション,ロードマップ,カーボンプライシング,トランジッション・ファイナンス,アジア・ゼロエミッション,Digi田(デジでん),NFT,Beyond5G・・・・

なんとも凄まじい演説。とりわけ「Digi田(デジでん)」には,目が点! いったいこれは何語で,その意味は何なのか? 興味と暇のある方は,内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局HPをご覧いただきたい。

こうしたカタカナ英語やローマ字略語の乱用は,むろん岸田首相に限られたことではない。他の政財官有力者たちも,競ってカタカナ英語やローマ字略語を使用している。一体全体,日本人が日本人を相手にしているにもかかわらず,なぜなのか? 

直接聞き質したわけではないが,おそらくそれは,富国強兵には世界共通語たる英語が不可欠だが,下々にはペラペラ英語は今は無理なので当面はカタカナ英語とローマ字略語で下準備をする,といったことを彼らが多かれ少なかれ考えているからに違いない。

彼らは,英語は「世界共通語」だ,だから世界で戦うには「使える」実用英語をマスター(習得)しなければならない,と信じて疑わないらしい。

が,しかし,本当にそうだろうか? 実用英語やカタカナ英語あるいはローマ字略語の普及で日本経済は再活性化し,社会は発展,文化も高まるであろうか?

 ■超訳「カタカナ語」事典,PHP文庫,2012

参照】「リスキリング」の言い直し,「学び直し」(追加2023/03/19)
・「産休・育休中のリスキリング(学び直し)」毎日新聞,2023/01/30
・「育休中に学び直し」朝日新聞素粒子,2023/03/18
・「育休中の「学び直し」を勧めるトンチンカン」Globe,2023/02/09

谷川昌幸(c)

Written by Tanigawa

2023/03/03 @ 14:56