ネパール評論

ネパール研究会

防衛大臣のタライ分離発言,総攻撃炎上

1.防衛大臣のタライ分離発言
SS.バンダリ防衛大臣(MJF-L)が9月26日,タライ22郡はネパール離脱もあり得ると発言し,大問題になっている。

バンダリ防衛大臣は,マオイスト=マデシ民主戦線4項目合意に基づき,マデシの国家諸機関,特に国軍への採用を要求,もしこの要求が無視され続けるなら,タライ22郡の分離もあり得ると語ったのだ。

2.バンダリ発言の論理性
このバンダリ発言は,ネパール連邦民主国の国是たる包摂参加民主主義に反しないというよりは,むしろその当然の帰結といってよいものだ。包摂参加原理をとる連邦国家で,包摂参加が認められなければ,連邦離脱は当然の権利だ。

3.天にツバするマオイスト国粋主義
ところが,マオイスト,特にバイダ副議長,バダル書記長らの左派は,バンダリ発言は国家反逆罪だとして大臣罷免を要求している。そして,政府は連邦制,自治権,自決権を堅持せよと主張し,抗議松明行進を敢行した。

また,UMLやコングレスも,バンダリ発言はネパールのシッキム化だとか,ナショナリズムに反するとかいって,彼を激しく攻撃している。

王党派のRPPがバンダリ発言を非難するのなら、筋が通っている。一元国家論を採っているからだ。しかし,包摂参加民主主義万歳!の日和見連邦主義諸政党には,バンダリ発言を非難する権利はない。

特にマオイスト左派はメチャクチャだ。あれだけ強硬に民族や地域の自治,自決を要求し,連邦離脱権さえ主張してきたではないか。それなのに,マデシが国軍や政府諸機関への比例参加が実現しないなら連邦離脱もあり得るといったとたん,それは国家統一に反するだの,国家反逆罪だのといって,大騒ぎする。支離滅裂の左翼国粋主義。そんな非難をするなら,包摂参加民主主義,連邦制,民族自治を取り下げてからにせよ。
 マオイスト連邦制案

4.右派ナショナリズムの一貫性
その点,王党派「人民評論(People’s Review, Sep.29)」の論旨は明快,すかっとする。

記事によると,マオイスト=マデシ連立政権を成立させ,防衛大臣など主要大臣を親インド派に占めさせたのは,インドの策略である。また「一つのマデシ,一つの州」は、元駐ネ印大使S.サランの策略である。

インドは,タライの地域社会を中心に援助してきた。そして,革命諸政党も,民主化運動Ⅱ成功後,420万のインド人にネパール国籍を与えた。タライはより親インドとなり,力をつけてきた。「人民評論」記事の著者Prajwal Shresthaはこう結論づけているが,この観測はおそらく間違いないであろう――

「もしいま選挙となれば,多数派のマデシが議会を牛耳り,われらネパール人は自国内の少数派に転落するだろう。」

* People’s Review, Sep.29; ekantipur, Sep.29; Rising Nepal, Sep.28.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/10/01 @ 11:28