ネパール評論

ネパール研究会

米軍機,謎のカトマンズ着陸

9月19日午後2時半,米軍機が秘密裏にカトマンズ・トリブバン国際空港(TIA)に着陸した。ニューデリー経由で飛来し,積荷を直接運搬車に移し,夕方5時過ぎ離陸,いずこかに飛び去った。

着陸した米軍機はC-17。兵員,武器などの輸送に使用されている。TIAでは,国軍が警備し,警察は近づくことさえできなかった。

130923 ■米軍機C-17(NASA)

今回の着陸については,政府からは事前に説明はなかった。巨大な軍用機が突然飛来したため,大騒ぎとなり,メディアでは様々な憶測が乱れ飛んだ(Telegraph,Sep.19; echitwan.com,nd; ekantipur,Sep.19)。

(1)大使館備品の輸送
大使館のため民間機では運びにくい物品を運んできた。――これは十分にありうること。また,たとえ民間機で運べるようなものであっても,軍用機で運ぶことには,それ自体,政治的に大きな意味がある。

(2)アフガン作戦中継基地とするため
大胆報道のテレグラフによると,来年の米軍・NATO軍アフガン撤退後,米国はネパールをアフガン作戦経由地として使用する予定。C-17は,その予行演習として飛来した。――この説は,パキスタンの不安定を考えると,あり得ないことでもないように思われる。

(3)「自由チベット」支援物資の輸送
C-17は,「自由チベット」支援のための物資(武器など)を運んできたという説――これはリスクが大きすぎ,まずありえないのではないか。

(4)CPN-M支援物資の輸送
CPN-Mに武器などを支援し,CA選挙を阻止させ,内乱を再発させるため。――これはちょっと考えにくい。

(5)インドのコミュナル紛争支援物資の輸送
インド・コミュナル紛争のいずれかの集団に武器などを支援するため。――これも考えにくい。

このようにネパール・メディアは,米軍機飛来目的をあれこれ詮索しているが,いずれも憶測の域を出るものではない。マル秘作戦だから,メディアにも事実は知りようもない。

それでも,二つのことはいえるであろう。一つは,これが初めてではないにせよ,米軍機がネパール政府上層部と国軍の了解のもとに飛来したということ。

ネパールへの米軍の進出は,中国もインドも嫌ってきた。今回は,ニューデリー経由で飛来しているから,インドの何らかの了解はあったのだろう。米国は,印―ネ―中のバランスをにらみながら,ネパール政府・国軍に働きかけ,軍用機を送り込んだにちがいない。物資輸送というよりは,むしろ米軍プレゼンスという政治的目的の方が大きかったのではないだろうか。

第二に,軍事は,今回がそうであるように,秘密が常態だということ。秘密だから,ネパールの人びとは不安になり,大騒ぎし,写真をフェイスブックに載せたり,動画をユーチューブに投稿したりしているのだ。
 ▼US Air Force Aircraft Taking Off

こうしたネパールの人びとの行動は,安倍政権のもとで「特定秘密保護法」を制定しようとしている日本にとっても,大いに参考になる。もしそのような法律ができたら,こと軍事に関しては,日本は今のネパールほどの自由も行使できなくなってしまう恐れがあるからである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/09/23 @ 18:56

カテゴリー: インド, 軍事, 中国

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