ネパール評論

ネパール研究会

制憲議会選挙2013(9):Bullet or Ballot

現在,ネパール政府(国家安全保障会議)は,選挙実施のため,軍隊,武装警察,警察の総動員態勢をとっている。
   軍   隊: 6万2千人
   武装警察: 2万9千人
   警   察: 4万5千人
   臨時警官: 4万5千人
        計 18万1千人

選挙集会や行進に爆弾が投げられ,反対派に棍棒や投石で攻撃され,立候補者や運動員が拉致されたりするのだから,軍隊や警察による厳重警戒はやむをえないとはいえる。国際社会も,それを強く支持している。

しかし,銃下の投票は,やはり異常である。健康な「平和ぼけ」の日本人は,本物の銃など見たこともないので,小銃を構えた兵士や警官に出くわすと,ギョッとし,心臓が止まりそうになる。このような「平和ぼけ」を正常とすると,ネパールの選挙は,どう見ても異常である。

 Ballot or Bullet! 投票か弾丸か!

これは,参政権なき被抑圧人民が唱えるときは,まだしも健全である。しかし,体制側が,危険性に無自覚に,その正義を大上段に唱え始めるときは,警戒を要する。

マオイストは「銃口から革命が生まれる」という毛沢東思想を掲げて人民戦争を戦い,王政旧体制を打倒した。そして,体制側となると,今度は他の体制派諸党と手を組み,西洋選挙民主主義者の積極的支援も得て,体制正統化のため選挙を実施しようとしている。今度は「銃口から投票が生まれる」のだ。

むろん,いかなる体制も何らかの「暴力装置」により最終的には担保されている。日本では,健康な「平和ぼけ」とは全く別の,脳天気な「平和ぼけ」が蔓延していて,自衛隊を「暴力装置」と呼ぼうものなら,「国賊」と罵られ,あげくは銃口さえ向けられかねない。軍隊や警察が国家の「暴力装置」たることは常識なのに,その常識を暴力により封じ込めようとする度し難い自己矛盾,非常識!

西洋諸国も日本も,その選挙は「暴力装置」により安全保障されている。その限りではネパールも全く同じなのだが,それでも,こう露骨だと,肝心の選挙の正統性に疑念が生じざるをえない。「銃口から投票を生み出す」ことの危険性を,とくに西洋の選挙民主主義者は,つねに自覚していなければならない。

さてそこで,反体制33党連合の選挙粉砕バンダだが,第1日目の11月11日は,カトマンズ市内を見た限りでは,8割程度の実施状況であった。バスやタクシー,それにバイクは,かなり少ないものの,どこでも走っていた。店舗は,表通りはほぼ閉じていたが,裏通りで1/3くらい,観光地ではほぼ通常通り営業していた。

いつもなら街角にたむろしてバンダ破りを見張り,攻撃するバンダ実施派の人々も,見て回った限りでは,どこにもいなかった。全体に規制は緩い感じ。政府が公共交通機関のバンダ襲撃被害の補償を宣言しているし,主要政党や経済界,市民社会諸団体もバンダ宣言無視を繰り返し宣言している。この情勢では,バンダ継続は難しいのではないだろうか。(ただし,バンダ中の移動が危険なことは言うまでもない。地域差も大きい。)

選挙との関係については,バンダそのものよりも,むしろ劣勢を伝えられるマオイストが,バイダ派中心の33党連合の反選挙バンダを口実にして選挙延期に回る可能性の方が大きい。マオイストにとって,選挙敗北となれば,失うものが多すぎるからだ。最大限の現状維持こそ,マオイストの党利党略であろう。

投票所入場券配付は投票日直前の17日というドタバタ。バンダ以外にも選挙延期の理由は,いくらでもある。

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■旧王宮入口のバンダ閉店/ヤンガル付近の営業商店と警戒警官

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■小銃武装兵(警官?,郵便局付近)/警察警戒車両(郵便局付近)

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■ニューロード入口/ラトナ公園バス停

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■アサン占拠のNCと警戒警官(車内)/ジャタNC選挙集会

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/11/12 @ 16:00