ネパール評論

ネパール研究会

無視される日本国憲法

ネパール制憲議会(CA)が2015年初春の制定・公布に向け,新憲法の起草をしているが,その過程において,日本国憲法はほぼ完全に無視されている。

1990年憲法制定過程においては,日本国憲法は最も重要な外国憲法の一つとされ,憲法調査団さえ,日本に派遣された。1990年憲法には,日本国憲法を参考にしたと思われる条文も,いくつかある。

ところが,今回の新憲法制定では,日本国憲法は全くお呼びではない。たとえば,国連開発計画(UNDP)の「ネパール参加型憲法制定支援(SPCBN)」の参照用外国憲法は,下記の通り。

140921a Support to Participatory Constitution Building in Nepal (SPCBN)
Constitutions of Other Countries
 1) The Constitution of France (नेपाली English)
 2) The Constitution of Socialist Republic of Cuba (नेपाली)
 3) The Constitution of the People’s Republic of China (नेपाली)
 4) The Constitution of Austria (नेपाली English)
 5) The Constitution of South Africa (नेपाली)
 6) The Constitution of Ethiopia (नेपाली)
 7) German Basic Law (नेपाली)
 8) The Constitution of Canada 1982 (नेपाली)
 9) The Constitution of United States of America (नेपाली English)
 10) Indian Constitution (English)
 11) Federal Constitution of the Swiss Confederation (नेपाली)
 12) The Draft Constitution of Kenya (English)

理由は,いくつか考えられる。第一に,今回は,世俗共和制,連邦制が前提であり,象徴天皇制単一国家の日本国憲法は,原理的になじまないということ。第二に,ネパールは武装独立,国軍堅持だが,日本国憲法は非戦非武装(第2章第9条)だということ。そして,第三に,日本の国力が減退し,存在感ないし影響力が小さくなっているということ。

むろん,先進諸国のネパール憲法制定支援は,実際には支援にとどまりえず,事実上,国政の根幹への広範な介入,赤裸々な内政干渉になっている。もし私がネパール人なら,愛国心を奮い立たせ,外国介入阻止,排外闘争に走っていたかもしれない。日本とならび,有史以来,独立を維持し続けてきた誇り高きネパールにとって,外国の憲法制定支援介入は政治的屈辱であり,最良の友好国・日本としては,そのようなポストモダン型ネオ植民地主義への加担は警戒すべきであろう。

が,それはそれとして,UNDPの参照憲法資料リストから日本国憲法が外されているのは,愛国者の一人として,無性に腹が立ってならない。UNDPの最大スポンサーは日本(下記グラフ赤線)。米仏独ばかりか社会主義の中国ですらあるのに,なぜ日本の憲法はないのか? (英国は不文憲法。)

140921 ■UNDP拠出金。※その他の資金はコスト・シェアリングと信託基金の合計。出典:UNDP, Annual Review of the Financial Situation(UNDP駐日代表事務所)

たしかに日本国憲法は古い。しかし,少なくとも第2章第9条の戦争放棄は,世界最先端であり,たとえネパールが最終的には武装独立を採るにせよ,もう一つの選択肢として十二分に検討されるに値する規定だ。これを参照憲法資料にすら掲載しないのは,明らかにUNDPの政治的意思であり,その見識を疑う。

ネパールの友人・知人には,日本国憲法,少なくとも第2章第9条は,参照憲法資料に追加されるべきではないか,と問題提起してみたいと思っている。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/09/21 @ 11:54